第1シードのスタン・ワウリンカ(スイス)が、準決勝で錦織圭を下したブノワ・ペール(フランス)を6-2、6-4のストレートで破り、楽天ジャパンオープンでは初めて、今季ツアー通算では4度目の優勝を飾った。優勝賞金は30万6200ドル(約3674万円)。  ツアー最強と言われるワウリンカの片手打ちバックハンド。昨年の全豪オープン、今年の全仏オープン制覇で実証済みの伝家の宝刀が、この試合のカギになった。ペールの武器は時速210㎞におよぶビッグサーブだが、立ち上がりはリズムに乗れない。第1セットの第4ゲーム、ファーストサーブが入らないところを狙ってバックハンドのリターンエース、さらにラリー戦からバックハンドのダウンザラインを突き刺してブレークに成功した。ペールは続く第5ゲームで必死にブレークバックしたが後が続かない。第6、第8ゲームと3連続でサービスゲームを落とした。  実は、ペールはこの大会の初めに左足首を捻り、テーピングでだましだましの勝ち上がり、4試合連続のフルセットで無理が重なったのだろう、この朝はアキレス腱に立ち上がれないほどの痛みがあり、痛み止めを打っての出場だった。第1セットのファーストサーブの確率が23%という低さにそうした背景があり、問題を抱えてワウリンカに立ち向かうのは限界がある。第2セットはビッグサーブ頼みで恐る恐る進んだが、第10ゲームに力尽き、最後はダブルフォルトという幕切れだった。  ワウリンカも足首の故障で、前週のフランス大会は2回戦で棄権。体調十分と言えない中でドロー運に恵まれ、この大会は1度もシード選手に当たらず、決勝では相手が故障……こうした幸運も長いツアー生活にはあるのだろう。ロジャー・フェデラーという天才プレーヤーを生み出したスイス出身。偉大なフェデラーの影に隠れながら、ひたすら練習し上を目指してきた忍耐の男だ。 「トッププレーヤーから学ぶことは多く、彼らのプレーを見ることから始まった。何が優れているのか、なぜ勝てるのか。決してコピーするのではなく、練習を繰り返した。この2年間で、少しずつ勝てるようになり、勝つことが自信となった。ぼくは、彼らのプレーを見るのが好きだ」  全米オープンでは、この日戦ったペールと錦織圭の1回戦も見たという。2人はツアーでも仲のいい友人だが、応援しながらもペールと錦織のプレーを研究していたのだろう。 「ペールのプレーは予測不可能と言われるが、よく練習するので、そう驚くということはない。それでも、きょうも重いボールを打ってネットに出てこられないよう工夫はした」  ペールは次週の上海大会はキャンセルして、ケガの様子を見る。 「この大会で決勝まで進めたことはとても嬉しい。錦織のような素晴らしい選手と再び戦い、あきらめず逆転できたことは大きな自信だ。ケガの状態は分からないが、来シーズンは自分に限界を作らず、一つでも上を目指して頑張りたい」  ペールは今年の全豪オープンでは、予選1回戦でその時点で世界ランク212位だった18歳のエリアス・ウマー(スウェーデン)に敗れている。そんな26歳のペールも7月にツアー初優勝し、ランキングを20位台に上げようとしている。ペールのように本格化の兆しを見せる選手がいる一方で、この大会と並行して開催されたチャイナオープンではノバク・ジョコビッチ(セルビア)とラファエル・ナダル(スペイン)が決勝で相まみえた……今年の大会では錦織圭の素晴らしいショットも堪能することができたが、錦織にはまだまだ多くの壁が待ち構えていることも改めて思い知らされた。 文:武田薫