去年の春のマドリード以来となったナダルvs錦織。ありそで無かったこの対戦が決まった時は、ちょっとワクワクした。この1年、全米準優勝を含め着実に力をつけ、前週のシティ・オープンで優勝し、世界ランクも4位に上げて勢いに乗る錦織選手。その活躍のおかげで、NHKがマスターズシリーズをカバーするようになっちゃったんだから、すごいことだなあとあらためて思いつつ、このロジャーズ・カップでマスターズシリーズ初優勝に期待の声高まる中、いわゆるビッグ4のうち唯一勝っていないナダルとどんな戦いになるのか、注目の準々決勝は、雨に加えフルセットの試合が続いたせいで、予定より3時間遅れて始まった。  上り坂の世界4位と、下り始めている9位の力の差は、ナイトマッチだったけれど、真夏の日差しが作る影のようにくっきりとあざやかだった。ああ、と気づいた。元世界ナンバーワンに初勝利なるか、とか、対戦成績0-7今回こそ雪辱を、とか、事前の記事は煽り立てたけど、もうとっくにそういうことじゃなかった。ナダルのこの1年と錦織圭の1年を見比べれば、対戦の機会がなかっただけでどう考えてもナダルの方が分が悪い。そもそも試合中のケガさえなければ、去年のマドリードで錦織のナダル初勝利は達せられていたはずだ。たったひと月前のウィンブルドンでもさんざん思い知ったばかりなのに、難敵とか強豪とかの単語に、私は性懲りも無く、もしかして、と思ってしまったんだと、第1セットをなすすべなく2-6で落とすナダルを見ながら、自分のおめでたさに頭を抱えた。  私は、19歳でグランドスラム初出場初優勝という鮮烈なデビューを果たした05年の全仏以来、筋金入りのナダルファンである。向かう所敵なしの時期もあったし、ここ数年は試合のたびに胃が痛くなるような気分で見続けてきた。去年の全豪で、ストレートとは言え壮絶に打ち合った末にナダルが錦織をねじ伏せた試合も見ていた。いずれ間違いなく追いつかれると思いつつ、あの時はまだ、勝てるかもしれない、と、負けるはずがない、の差はあると感じていた。それが、ついに逆転した、と、昨日の試合を見て思った。ところどころらしいプレイで意地を見せる場面もあったけれど、決まるべきショットが決まらず、してはいけないミスをくり返し、もがけばもがくほど深みにハマっていくようだったナダル。早い攻撃でどんどんウィナーを叩き込んでくる錦織に圧倒されての完敗。  いつかこんな日が来ることは、なんて、安いラブソングじゃあるまいし。でも、ほんとに来たんだな、そういう日が来たんだなあと、胸がいっぱいになった。才能にあふれる若き同胞の活躍に心から拍手を送りつつ、あきらめることなくぶつかり続ける私のヒーローにも、心からの共感と拍手を送りつつ。ひと足早い秋の風が胸を吹き抜けるような気持ちだったけれど、淋しい、と言うのは、もうすこし先にとっておこうと思う。