ジョコビッチは間違いなく最強の相手。グループAの面々はほとんどまともに試合するまでもなくジョコビッチに叩き潰されてきたのです。その最大の原因は深さ十分のストロークと安定したサービスゲーム。フォアハンドの強打を持ち味とするグループAの各選手達は自らの武器を封じられてジョコビッチからストローク戦でまともにポイントを奪えず敗れ去りました。また1stサーブのコントロールに苦しむ各選手達を尻目にジョコビッチだけは次々とサーブを沈めていきました。全てにおいて盤石のジョコビッチに隙は見当たりません。錦織の目の前に立ちはだかったこの対戦相手はあまりにも強すぎたのです。  運命の準決勝が始まりました。錦織もジョコビッチもお互いエンジン全開で臨んでまずは1ゲームづつキープします、しかしその時既にジョコビッチのストロークの脅威は十分に感じられました。とにかくどのショットも深い!錦織はライジングをしたくてもジョコビッチのボールが深すぎるので合わせるだけにとどまり、中々前でボールを叩くことができません。おまけにジョコビッチは球種、スピード、コースもどんどん変えながら錦織にプレッシャーをかけていきます。錦織も浅いボールはしばいて攻撃しますが、リスクを冒して攻め続けなければならない錦織とそれに対してプレッシャーをかけ続けるジョコビッチとの差がじわじわと出てきました。30-40から錦織はジョコビッチを振り回して攻めきり最後のボレーまで持ち込んだのですがこれが痛恨のアウト…ジョコビッチが先にブレイクを奪って3-1とリードしました。  ブレイクを奪い返したい錦織でしたがジョコビッチを全く崩すことができません。ファーストサーブが非常に高い精度で安定しているジョコビッチはこのサーブを軸に錦織の甘いリターンからどんどん攻め込んで楽々とキープしていきます。第1セットの1st確率は実に78%、錦織にチャンスはありませんでした。逆に錦織が30-30からDFを犯してしまいまたしてもピンチ、なんとかデュースに持ち込みましたが最後は錦織のショットがネットに嫌われて大きく弾んだところをジョコビッチに叩きこまれました。ジョコビッチが最後も楽々とキープして第1セットは6-1。錦織もまたジョコビッチの前には歯がたたないのか?  第2セットが始まりました。錦織の悪い流れは変わらず最初のポイントでいきなりダブルフォルト、15-15からは弱いセカンドサーブを叩きこまれピンチを迎えると最後30-40からフォアハンドの凡ミスでブレイクを許してしまいました。錦織がこのゲーム取った2本のポイントはいずれもウィナーだったのですが逆に残りは錦織のミスだったのです。  このまま敗色濃厚かと思われましたがここでジョコビッチが隙を見せます。ストロークを3度ネットにかけて錦織にBPを与えるとお客は大騒ぎ、集中力を欠いたジョコビッチはDFを犯してしまったのです。ジョコビッチは客に皮肉を込めた拍手を送ります。強敵に綻びが生じました、さあチャンスです。次の錦織がしっかりキープして試合の流れを引き戻しました。 第2セットブレイクを奪うと集中力が切れるジョコビッチの悪癖。北京のディミトロフ戦マレー戦、パリのマレー戦錦織戦、最終戦チリッチ戦といろんな試合でやらかしている。錦織はここを逃さず攻め立てたい…よくキープした! #nishikori #錦織圭— TENNIS LOVERS (@tennisloversjp) 2014, 11月 15  しかし試合前プレビューにも書きましたが、ブレイクバックされたジョコビッチは再び集中力を上げてブレイクしなおして全てストレート勝ちしているのです。だが今日の錦織はひと味違いました、ジョコビッチの再攻撃を許さずここから素晴らしい試合運びを見せるようになります。第5ゲームでは30-15から素晴らしいロングラリー、ジョコビッチの攻撃を全てしのいだ錦織は最後DTL気味の逆クロスを浴びせて見事にウィナーを奪いそのままキープ。第7ゲームでは落ち着いてジョコビッチの深いボールをさばくことに成功した錦織がここもしっかりキープします。第2セットに入って確率の落ちているジョコビッチのサービスゲームに徐々にプレッシャーがかかってきました。  第8ゲーム、30-30。激しいラリーが展開されました錦織は一歩も引きません。深いボールを打ち込んでジョコビッチを釘付けにすると帰ってきたチャンスボールを全力のフォアハンドで叩きこみました。錦織のブレイクポイント!続くポイントでも錦織が魅せます。フォアのDTLでジョコビッチの甘い返球を誘うとドロップショット、やっと拾ったジョコビッチの頭上にロブ、なんとか返したジョコビッチの返球に対して先ほどと同じような全力の強打を叩き込みました。錦織がブレイクです!!  迎えた錦織のサービスゲームは完璧でした。2本のエースを叩き込み最後もファーストサーブでジョコビッチに返球させずにあっさりキープ、錦織が最高の形で第2セットを奪いました。素晴らしいプレーでした。  ファイナルセット最高勝率を誇る錦織がこのまま押し切るのか?錦織は最初のポイントからジョコビッチのリカバリーを物ともせずに攻撃してポイントを奪います。錦織らしいリターンの強打も突き刺さってジョコビッチにどんどんプレッシャーをかけていきます。無理してDTLを狙ったボールが大きくアウトしよろめくジョコビッチ。錦織が15-40とジョコビッチを追い詰めました…1本錦織のフォアがネットにかかかりましたがまだチャンス。錦織は素晴らしいリターンでジョコビッチに圧力をかけましたが、体勢崩されながらギリギリの深さに落としてしのいだジョコビッチに対して逆に錦織がバックハンドをミスしてしまいました。  正直ここを取れていても勝てたかはわかりません。だがこのゲーム以降試合の情勢が確実に変わりました。錦織が自分から攻めに行っても結果的にミスでジョコビッチのポイントに終わることが多くなりました。攻めているのが錦織なので時折見られるビッグプレーはほとんど錦織側に見られるのですがそれが続かないのでゲーム奪取まで行かず、逆にミスでジョコビッチにポイントを渡してしまいます。  錦織のミスでブレイクを奪えたジョコビッチは冷静さを取り戻しました。第3ゲーム以降のジョコビッチは心憎いまでに落ち着いていて、第1セットと変わらぬいつものジョコビッチに戻ってしまいました。ファーストサーブも最悪だった第2セットに比べると復調したジョコビッチに対して錦織の課題であるサーブは今日もダブルフォルトを積み上げました。錦織は1ゲームも奪うことができず、ジョコビッチの前に敗れました。 Smile boys! Novak #Djokovic and Kei #Nishikori strike a pre-#FinalShowdown pose. #tennis #錦織圭 pic.twitter.com/1rBvlWmxEm— TennisTV (@TennisTV) 2014, 11月 15 錦織圭 1-6,6-3,0-6 ノバク・ジョコビッチ  テニスは派手な攻撃ばかりに目が行きがちですがやはりミスを減らしたものに勝機が訪れます。ミスは相手にタダでポイントを渡してしまいます、一番やってはいけないのです。そして錦織がミスするのはこう言ってはアレですが仕方なかったのです。今の錦織はリスクを取って攻撃し続けない限りジョコビッチに対抗できないのですから。  素晴らしいときの錦織のよさは第2セットで存分に示しました。ならば王者の強さばかりが光った残りの2セットでどうするべきか。大会通じて低調だったサーブの改善、戦略の見直し、ネットプレー。やるべきことはいっぱりあります。  今年の世界5位フィニッシュはもちろん最高です!本当におめでとう!  同時に越えるべきさらに高い壁も見えた最後の戦いでした。今までいい意味で期待を裏切り続けてきた錦織が2015年どんなテニスを披露してくれるのか、悔しさとともに今から楽しみでもあります。年末に始まるブリズベン大会、そして1月の全豪オープンでまた錦織のプレーを楽しめることを信じて。