ファイナル準決勝のジョコビッチ戦は、第二セットを奪う健闘を見せるも惜しくも敗れました。 いやぁ、本当に惜しかったですね。 特にセットオールで迎えた第三セット、ジョコビッチサーブの第一ゲーム。 第二セットからのいい流れのままで15-40。ブレークポイントが2つあったんですよね。 ここを破っていれば、勝勢だった。王者をさらなる苦境に立たせることができた。 ところがここで痛恨の攻めミスふたつでデュース・・ 2ポイントともジョコビッチのセカンドサーブだっただけに大きなチャンス。なんとももったいなかった。 結果的にここを取り切れなかったことを錦織は引きずってしまい、それ以降試合は壊れてしまいました。 出だしはジョコビッチの独壇場でした。 サーブはしっかりとコースに決まり、リターンは深く、しかも角度がついている。浅いボールは確実にアドバンテージを取りチャンスボールは完璧に決め、まったくスキがありませんでした。 なにより、フォア・バックとも積極的なストレート攻撃を頻繁に行い、それが錦織に後手を踏ませ、ストローク戦でもほとんどを支配していました。 これは、むしろ挑戦者である錦織のほうが取るべき作戦だったと思います。 全米で苦杯をなめた苦い経験からか、ジョコは最初から全開でした。 それはある意味、成長著しい錦織に対する警戒心の高さの裏返しだったと言えるでしょう。 しかし、第二セットから錦織の猛攻を受けて、そのジョコが受け身に回り始める。 前述の第三セット、ファーストゲームは、その流れを踏んでいたんですよね。これをフイにしてしまった2つのミス。 錦織は「プレーを自分で(悪いほうに)変えてしまった」と悔いていました。 以前にも、魚釣りの例を挙げて書きました。 大物を掛けることはできても、それを網に取り込むのが難しいのだと。 仕掛けを太目(粗目)にすれば、途中でバレることは激減します。 しかし、それでは大物が警戒して食ってこない。なるだけ細い仕掛けであることが、大物ヒットにつながる。 ところが、ヒットしてまず最初に竿が引き込まれる。 竿と仕掛けが一直線になってしまえば仕掛けが切れてその瞬間アウト。 そこをうまく、なんとか竿のしなりを利かせながらしのぎ、次に時間をかけて魚を弱らせ、かつ魚が暴れないよう慎重に手前に引き寄せる。 しかし、あとちょっと・・網に入れる際に、魚の最後の「あがき」が起こってトラブルになり、仕掛けが切れることがよくあるんです。 テニスのプレーも、強者相手に一発狙いで粗くてはダメです。 準決勝の舞台に立ち、大物を相手にすることができた。つまり、大物をヒットしたことと同じです。 次は、相手を弱らせ、勝利を手繰り寄せる作業です。焦らず慎重に、かつ大胆に作戦を遂行し、最後まで油断なくそれでいてしたたかに戦っていかなければなりません。 心は熱く、頭は冷静に・・です。 「よし、もうちょっとで網に入る・・」と思った瞬間! 落とし穴が待っていたんですね。 釣り人も、激闘を繰り広げた結末にバレてしまったら・・逃した魚は大きい。 ポッカリと心に穴があいて、しばらくは竿を持つ気になれません。 全米での錦織もそうでしたね。 無心で戦ってきて、決勝の舞台に上がることができた。そう、大物(優勝カップ)ゲットは目の前だったんです。 しかし、相手が分のいいチリッチであったため、戦う前から優勝の文字が目の前に浮かんでしまいました。 こうなると戦う人間の心理状態としては最悪です。 それまでは、勝ち負け(結果)に固執せず一球一球に集中し、その積み重ねが勝利につながっていった。 それが、やる前から「勝てそうだ」となると、早く結果に到達したいという思いに駆られ、目の前のボールに集中できなくなる。どうしても先を先を急いでしまう。 言い方を変えれば、錦織にはまだ大物を取り込むだけの準備と力が不足していたと。 つっこんだ部分ですが、今後は「欲」との勝負に勝たなくてはならないでしょう。それを集中力に代える方法を会得するしかありません。 それを本人も「弱い部分」と認識はしているようで、今後に期待できます。 スポーツはよく「8分の力で」と言います。 気負わず冷静に事を進めることが、安定した結果を残すことにつながる。ひいてはケガを未然に防ぐことになる。 その8分の力で相手を倒すためには、10の力をレベルアップするしかありません。 極端に言えば、今年10でやっていたことを来年は8でやれるようにする、ということです。 われわれテニスファンを、そして日本中を沸かせてくれた錦織の2014は終わりました。 気持ちはすでに来期へ向けられていることでしょう。 たくさんの栄光を掴むことができた喜びと、いくつかの大きな悔しさを胸に、もうすでに来期は始まっているんです。 ここで声を大にして言いたいですね。 マスコミをはじめとした種々の報道・放送関係者の方々は、錦織選手を、日本の宝を引っ張りまわさないでほしい。 自らの利益追求のための取材や出演依頼は極力自粛してほしい、と。 一か月半後の年明け早々には、全豪オープンに向けて前哨戦が始まる。(すでにブリスベンとクーヨンにエントリー済) そのための「これまでよりさらに厳しい、けれど楽しいであろう」練習が、さらなる栄光を掴むための準備が、これから始まるんです。 さらなる活躍を期待するのなら、くれぐれもそっとしておいてほしい。好きにさせてやってほしい。 (錦織クンが、日本に帰らずにずっと自宅のあるフロリダで練習すればいいことですかね。) どこか天然で純朴な優しい青年の大いなる活躍が、今から待ち遠しいです。