1ゲームで終わった試合、一人の中に二人の選手がいた(テニスATPツアー・ファイナル、錦織対ジョコビッチ)
テニスATPツアー・ファイナルの準決勝、錦織対ジョコビッチ。
民放局の粋な計らいで、リアルタイムで見られることへの感謝は、わずか二十数分で絶望へと変化した。
第1セット、1-6で錦織は落としてしまう。
第1セットだけを見ると、ジョコビッチの圧勝だと思った。
それほど、ジョコビッチのプレーは完璧で圧倒的だった。
第2セットも、第1ゲームでいきなりサーブをブレークされるが、錦織はブレークバックをし返す。
ここから錦織はギアを上げ、第8ゲームでもブレークをして、このセットを6-3で獲得する。
今大会絶好調のジョコビッチからのセット奪取。
スタンドの観客は完全に錦織を応援している。
第3セット、ジョコビッチの調子がおかしい。
第1セットに比べて、足が動いてないようにも見える。
ファーストサービスの確率も落ちている。
錦織は、長いゲームになればお手のもの。
全米のときと同様、スロースターターぶりを発揮できるだろう。
これは決勝進出も見えてきた。
信じられない展開だ。
と期待を込めてみた矢先、信じられないプレーを見る。
第1ゲームは15対40とダブルブレークのチャンスがあったが、それをモノにできなかった。
自らのミスで逃してしまったのだ。
ここから錦織は崩れ出す。
自分のサービスもミスでブレークをされてしまう。
ゴルフ同様、テニスもメンタルのスポーツだ。
あっという間に、プレーに影響する。
第3セット、ジョコビッチのプレーのギアが上がったようには見えない。
むしろ、淡々とプレーしている印象だ。
逆に錦織が自滅していってしまう。
チャンスを逃し、機会を取りこぼす。
ジョコビッチはピッチを上げるわけではない。
普通のプレーをしているだけで、錦織の自滅を待っているのみだ。
第2セットの落とし方や錦織のプレーの質を見ると、ジョコビッチこそ第3セットは崩れてもおかしくなかったが、そこを持ちこたえるのが、ランキング1位の力だろう。
第3セットは、なんと0-6で錦織は落としてしまう。
こんなに淡白なプレーをし続ける錦織を見るのは初めてだ。
ミスがミスを呼び、なにか機械的に試合を続けているような印象を受ける。
ベンチに座る錦織の顔は、どこか上の空、といったところだ。
きっと、「最初のゲームをどうして取れなかったのか」という後悔が、試合中に始まっていたのだろう。
試合中に過去のプレーの反省や振り返りをしていたら、もうそこで試合終了だ。
まるで乱気流に突っ込んだ飛行機のように上下する錦織のプレーぶりは、期待以上でもあり、がっかりもある。
いい意味でも悪い意味でも、観ている者たちの期待を裏切る選手なのは間違いない。
この大会、絶好調のジョコビッチから1セットを奪ったプレーぶりは、錦織の実力が、ビッグ4とそん色ないことを示している。
しかし、A・マリーの試合の時のような、「Fake」の力を、試合を通じて錦織は出せなかった。
思いこみは、第3セットの第1ゲームを失った時点で、消えてしまったのだ。
まるで、最後まで勝利を信じられなかった、先日のラグビー日本代表のようだ。
今回の敗北と言う結果以上に、第3セットの戦いぶりが残念だった。
しかし、それほど真剣に、心から願っていた決勝進出だったのだろう。
だからこそ、らしくない淡白な戦いぶりをした錦織を責めることはできない。
きっと、敗北以上にその戦いぶりを口惜しく思っているのは、錦織本人だから。
なんてもったいない。
そしてこんなに実力を持っていた選手だったなんて。
より大きな可能性を見せてくれ、それだけにより大きな落胆を味あわせてくれた錦織の今シーズンの戦いは終わった。
きっと、来年はもっと大きなサプライズを、観る者に運んでくれるだろう。
いや、「やっぱりな」という、大仕事を当たり前に思うことだろうか。
現に、ベスト4のポジションにいる、ということを、自分たちはすんなりと受け入れ始めているではないか。
来年こそはでっかい仕事をやってくれることを期待して、錦織の今年の戦いをねぎらいたい。
お疲れさまでした。