王者が与えた試練…約1年ぶりの完敗で見えた「危険」(2014ツアーファイナルズ3日目)
11/11 現地14:00~(日本時間23:00~)
Barclays ATP World Tour Finals
Round Robin Group B Game3
[4]Kei Nishikori 3-6 2-6 [2]Roger Federer
人はなすすべなく負けた時、著しく成長するときと、そのまま自分を見失ってしまうとき、その2つに分かれます。
昨日のフェデラー戦、「フェデラー強し」その言葉で全てが説明できるような気がします。
もちろんそれだけで片づけてはいけません。あの試合には錦織にとって重要なものがたくさん詰まっていた試合でした。
とにかく私はフェデラーのサーブは返せるものだと思っていました。
しかし錦織はラオニッチのビッグサーブよりも返しづらそうでした。そんな気がしました。
フェデラーはサーブのコースが読みにくいと言われます。一般的に考えて、速さが約20~30kmも違うのに、フェデラーのサーブがラオニッチのサーブより返しにくいのは物理的におかしいと言えばおかしいのですが、それだけコースを読めないと無理ということです。
そう言う状況で錦織にはわずかなチャンスしかなかったように思います。
第1セット第3ゲームと第2セット第8ゲーム(サービング・フォー・ザ・マッチ)です。
特に第1セット第3ゲーム。あの場面は結果的に試合を決める決定的な場面だったように思います。
結果的にフェデラーを褒めるしかないのですが、あと1ポイント。それがどうしようもなく遠いように思いました。
その1ポイントが届かなかったという試合で思い出すのは約1年前、大接戦で「あと1ポイント」が来なかった2014全豪ナダル戦です。
あの時錦織はベストのプレーを心掛けていました。そしてかなりナダルにいいところまで肉薄していました。
しかし結果は全セット5-5から落とし、0-3での完敗。
スコアこそ開きはありますが、似たようなものを感じました。
やってることは悪くない、だけどスコア差は開いていくばかり…いわゆる「力の差」です。
ではなぜこうなってしまったのか?これには明確な答えを私なりに持っています。
「サーブ」と答えると思いましたか?違います。
私自身サーブは確かに原因の一つかもしれないとは思いますが、最も決定的な要因ではないと思います。
その証拠に昨日私が提示した「1st60%」は実は第2セット中盤まではずっと継続していましたし、数えてませんがフリーポイントもそこそこあったように思います。
DF5本を指摘されるかもしれませんが、まあ確かに多いんですがマレー戦はDF8本で勝ってるわけですし、これも最も主要な要因にするには違います。
そう、サービスである程度のフリーポイントを取りながら3ブレークもされた理由、錦織は純粋にストローク戦で敗れたのです。
フリーポイントからキープの前提に「ラリーに関係ないポイントをのぞけば、錦織は5割以上ラリーでポイントを取れる」というものがあります。
全米でジョコビッチに勝ったように、錦織はラリーに持ち込みさえすれば5割以上誰からでもポイントを取れるという感覚はだいぶ前に錦織が覚醒してからずっとありましたし、数々の名勝負をビッグサーブなしに切り抜けてきたその結果が証明しています。
だからこそ、完敗なのです。自分の持ち味を真っ先に潰された。これでは本当になすすべもなかったと思います。
フェデラーの戦略はそう言う意味で単純でした。錦織にはストロークがある、だからこそ封じなければならない。
ストロークという多彩な攻めができる道具に対してフェデラーはすごくシンプルに考えました。「フリーで打たせなければいい」ということです。
錦織の良さは時空間支配テニスと以前書きました。とにかくコートの中に入って左右前後に自在に振り回す。速いテンポで次々と多彩な攻撃ができる世界でも数少ない、いやクオリティまで言えば唯一の選手かもしれません。
それに対してフェデラーは真っ向勝負を挑みました。
ぜひ2窓画面にして、今回のフェデラー戦とマレー戦の映像を同時に見てみてください。ラリースピード、ストロークのスピード、フットワークのスピード、すべてが段違いです。
これはマレーを貶めているわけではありません。マレーは自分のプレースタイルにのっとってしっかりディフェンスしながらチャンスをうかがう展開を作りました。単にフェデラーが「速い」テニスを選択したことの確認にすぎません。
つまり対錦織戦においてのフェデラーの対策は「自分も速いテニスを心掛け、打ち負けない」ということです。
こうすることで錦織も返球する時間が短くなりますから簡単に攻められなくなります。
しかもこの速いテニスでありながら、打ち負けないというのは簡単なことではありません。
以前にも書きましたがライジングボールのコントロールは非常に難しい。
普通に考えればフェデラーがこの選択をすることでミスが増えます。そうして錦織ペースに向かえばむしろ錦織としては好都合なわけです。
ですが現実は違った。フェデラーは深いボールに対しても甘くならない返球を続けました。
錦織は攻めていました。これもマレー戦と比較すると明らかですが、本当に厳しいところ厳しいところをついていました。
ただ結果的にはそれが確実性を失うとこになり、先にミスする展開が増えます。
テニスはビッグポイントもサービスエースもミスもダブルフォルトも全部同じ1ポイント。これが大きく響きます。
最終スタッツはフェデラーがウィナー17、アンフォースドエラー18、錦織はウィナー15、アンフォースドエラー30。
ウィナーの数で同じながらミスの差がはっきり出ています。
つまり錦織はあれだけ強固だったフェデラーからほぼ同数のウィナーを取ったのですが、代償は精度に欠けてしまうことだったんです。
本当にやるべきことは試合中すべてやっていました。あえてループボールを打ってミスを誘ったり小技もたくさん効いていました。
ただそれが継続的な結果につながることはありませんでした。錦織が悪いとは思いません。フェデラーを褒めるしかないです。
真っ向から自分のテニスの土俵に入ってきて負けた…
スコア以上に錦織にとっては「完敗」と感じているのではないでしょうか。
フェデラーからのコメントにもある通り「スコアほどの楽な試合ではなかった」のは確かです。
いつでも逆転のチャンスをうかがう錦織はフェデラーにとって脅威でしたでしょうし、最初から最後まで一切プレーレベルを落とさなかったことに現れていると思います。
もう一つフェデラーが思っていたことは「もつれると危険」だったのではないでしょうか。
過去の対戦も勝った試合はストレート勝ち、負けた試合はフルセット負け。ファイナルセット最高勝率の錦織に1セットでもとられればファイナルインが確定する3セットマッチにおいて、一瞬の油断が危ないと思ったのでしょう。
今回の試合、フェデラーの戦略勝ちによるところが大きかったように思います。
錦織の課題はこの試合からたくさん見えました。今後多くの選手がフェデラーのような作戦を取るかもしれません(ただあれだけの早打ちでリスクを取ったプレーで錦織に勝って行ける選手は少ないと思いますが…)。
あとはやはり流れを一度も渡してくれないようになるでしょうね。ちょっとした中だるみを錦織は逃しませんし、そういったところから逆転勝ちした例は数知れません。
ただ…
一つだけ気になったことがあります。
フットワークが悪すぎるのです。
特にポイント間の移動時の動き方が少し悪いように見えました。正直どこか痛めているようにしか思えませんでした。
バックハンドを力なくネットに掛けるストロークも、見方によっては踏ん張れないからな気がしてならないのです。
手首も大きな問題ですが、私はこっちのほうがより危険だと思いました。
幸いにも次戦はラリーはあまり続かないであろうラオニッチ戦なのは救いですが、一方手首が痛いのにビッグサーブを受けるのはそれはそれで危険ですし、次戦勝てる見込みがかなり少なくなったと感じました。
ただあのマレーに3ブレークもされているラオニッチ、一体何があったのか分かりませんので、とりあえずラオニッチ戦も2試合ともしっかり見てプレビューを書きたいと思います。
私自身も錦織のプレーレベルが上がる中で、ケガや疲労以外の理由で負けたのは芝コートに慣れていなかった2試合を除けば、3月のインディアンウェルズのハース戦までさかのぼります(と、私の評価としては思っています)。
すぐケガなのでは?と疑ってしまうのはコアな錦織ファンとしての悪い癖ですが、しかしいろんな要素を考えてもこれだけの完敗というのは久しぶりすぎてなかなか私自身も立ち直れないほどのショックです。
まあこんな負けは昔ならいくらでもあったのかもしれません。あえて昔の錦織の試合と比べて何が違ったのかを検証してみるまで、この試合の真の評価はできないような気がします。
さてマレーがラオニッチに勝ちました。私自身は錦織の通過に関して言えばこれでよかったように思います。
というのもこうなったことで次戦負けても2位通過の可能性が残ったからです。
正直ラオニッチの調子も悪そうですが、ブログで書いている以上に私は絶望感を感じており、正直勝てる見込みをほとんど感じていないのが現実です。
ですので勝った方が2位のパターンにもつれるよりも、ぐちゃぐちゃいろんなパターンの可能性を考えなければいけないけども確率も高めのこのパターンになったことは好材料です。
明日はグループAの状況、ランキング、そしてラオニッチ戦と準決勝以降の見通し、対策についてやっていきます。
※敗戦のショックと疲れでついさっきまで寝てたのは内緒です