先日のエントリーでも申し上げたこの夢の一戦。 ついにこのステージまで駆け上がってきた日本の若き才能がどこまでやれるか。 ストローク戦に華のある2人、これまでの戦績からも、世界中で好勝負が期待されていたことでしょう。 しかし結果は意外なほどにもロジャー・フェデラーの圧勝に終わりました。 「憧れのアイドルとただプレーしていただけだった」 という2011バーゼル決勝以降、その後勝利した2013マドリード、2014マイアミではグラウンドストロークで優位に立ち、接戦を制してきた錦織。 特に今年のマイアミの勝利は衝撃的で、絶対の自信を誇るサービスゲームが次々に破られ、あのフェデラーがまるで疑心暗鬼になったかのようにサービスの調子を崩していきました。 こうした撃ち合いは分が悪いと踏んだ王者は、再び相まみえたハーレでは積極果敢にサーブ&ボレーを仕掛ける戦術を取り、ストレートで勝利を引き寄せます。 それでもある程度の勝負はできており、ストレートのスコア以上に競ったゲームだったと言えるでしょう。 単純にもっとも得意とも言えるグラスコートの経験の差、そうした僅かな積み重ねによるスコアであったと私は思います。 それからの経験、自信、スタイル、たとえあのフェデラーが相手でも、今の錦織圭なら五分以上やれるのではないかという予想は、あながち間違ってはいなかったと思います。 しかし今日のフェデラーの姿は、まさに真の王者のそれでした。 立ち上がりこそやや硬さが見られたものの、徐々に真価を発揮。 最近では錦織の専売特許ともなっていた、ベースライン内側に入る早い展開からの攻撃で主導権を握ります。 あまりにも早いライジングの応酬に、さすがの錦織もペースを掴むことができませんし、こうした展開は錦織の試合を見ていてもあまり記憶にありません。 さらに錦織へムーンボールを多用し、チャンスとあらばネットへ走る。 ストローク戦でもベースライン中央からあまり動かず、カウンターのチャンスを与えない。 言うならば、この日のフェデラーによる錦織対策はほぼ完璧でした。 そしてこのような戦法は他ならぬフェデラーだからこそ実行可能な、相当にレベルの高いものだったと言えるでしょう。 反撃の糸口が見つからないという点では2014インディアンウェルズで負けたハース戦を思い出しますが、今日の錦織はそこまで悪かったかというとそうでもありません。 時折見せたバックハンドのダウンザライン、また絶妙なロブショットも決めるなど、見る者の心を熱くさせるようなショットは随所に見せていました。 2ndセット錦織40-0からのアングルに叩き込んだウィナーなど思わず声が出るような素晴らしい攻撃もあった。 しかしそれが継続してできない、させてくれない、こうしたところに百戦錬磨の王者の強さを垣間見たように思います。 またこの日も錦織のサービスは低調でした。 パリ大会から続く謎の不振ぶりでしたが、これはどうやら錦織の右手首の故障によるもので間違いなさそうです。 プレーができないほどのものではない、とのことでしたが、こうした世界最高峰の舞台では、何重にも巻いたテーピング、手首の違和感・痛み、僅かな「いつもと違う感覚」の積み重ねが致命傷になるのでしょう。 ある程度一緒に打ち合うマレーには噛み合わせがよかったのかも知れませんが、フェデラーには早い段階から攻撃に転じられ、痛みも相まって徐々に錦織圭の自信は奪われていきました。 強く、美しく、時には狡猾に。 これこそ、テニス史の頂点に燦然と輝く王者、ロジャーフェデラーの姿でした。 完敗です。 ラウンドロビン突破に向け、最後に迎える相手は、最近では名実ともにライバルとしてお互いに立ちはだかることの多いミロシュ・ラオニッチ。 マレーにストレートで敗れたことで僅かに残されたラウンドロビン突破に向け、最初からエンジン全開で飛ばしてくることでしょう。 毎試合が激闘の系譜になるこの2人の対戦がどうなるか。 場合によってはどちらが勝利してもラウンドロビン突破は果たせないという非情な戦いでもあります。 この手首の故障がどれほどのものなのか、これは本人・陣営にしか分からないことだと思います。 願わくば最後まで、この煌びやかな夢の世界で一日でも長くその姿を見ていたいものです。 そしてもう一度、王者への挑戦をする姿を望むのは酷なことでしょうか。 神様、どうかもう少しだけ。。