ベスト8が出そろい、いち早く進出を決めている錦織圭(日本)の準々決勝の相手はマリン・チリッチ(クロアチア)、昨年の全米オープンの決勝が再現されることになった。  チリッチの安定感が際立った試合だった。第1セットの第1ゲーム、エースを絡めた立ち上がりから、すぐに第2ゲームをブレーク。第3ゲームでは3本のブレークポイントをセーブしたことで余裕が出た。チリッチはシーズン後半から調子を戻し、ウィンブルドンでベスト8、全米でもベスト4までコマを進めた。ただ、そこで足首を痛めてしばらくコートを離れ、前週の深センから復帰してベスト4。故障は完全に癒えていると言い、前日の1回戦でドナルド・ヤング(アメリカ)とフルセットを戦ったことで、再びペースを取り戻したようだ。第1セットの5本のブレークポイントをしっかりセーブ、第2セットはブレークポイント0、ストレートで片付けた。 「来日が遅れて連戦になっているけれど、全米オープンの後は試合からも離れ体力的には十分にフレッシュだ。きょうは風が強かったが、コート環境にも慣れてきた。ケイとの試合を楽しみにしている」  ベスト8が出そろったところで気になるのは、錦織の予想対戦相手だろう。チリッチを切り抜けたとして、準決勝の相手はブノワ・ペール(フランス)とニック・キリオス(オーストラリア)の勝者になる。ペールは今年の全米オープン1回戦で敗れた相手であり、キリオスなら、こちらは今年のテニスシーンを色々とにぎわせた20歳の新鋭……まだまだ難関が控えている。  1回戦でフルセットと苦しんだそのキリオスは、この日はセンターコートに入り、パワフルなショットにトリッキーなリターンを交えて本領を発揮した。世界ランク22位と格上のロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に対し、ブレークポイントを1本も与えずにストレート勝ち。今シーズンは錦織やチリッチの下の世代、ニュージェネレーションの台頭が目立ったが、その旗頭がこのキリオスだ。テニスは勝負優先か、楽しみ優先かの質問にこう答えた。 「楽しいことが好きだし、人々を楽しませたい。ぼくはまだ若いから、勝負と楽しみのバランスがまだとれていない。これから経験を積んで、いいバランスのテニスができるようになりたい」  今シーズンは、いくつかの舌禍事件でメディアや祖国のテニス協会からバッシングされただけに猫を被っているが、悪ガキらしい片鱗もチラリと見せた。世界中で話題になっているロジャー・フェデラーのレシーブでのネットダッシュ、SABR(Sneak Attack By Roger)。キリオスはこの日、それによく似たレシーブを何度か試みた。 「本当のことを言えば、ぼくはロジャーがやる2、3年前からやってるんだ。Sneak AttackじゃなくStolen Attack(盗まれた攻撃)だったりして……」  準々決勝の相手ペールは癇癪持ちだけに、若者の挑発に乗らなければいいが…。  その他では、予選上がりのオースティン・クライチェク(アメリカ)がジョアン・ソウザ(ポルトガル)を倒し、第1シードのスタン・ワウリンカ(スイス)に挑戦する。 文:武田薫