女子シングルス決勝が行われ、第26シードのフラビア・ペンネッタ(イタリア)が準決勝でセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)を倒したノーシードのロベルタ・ビンチ(イタリア)を下し、初のメジャータイトルを手にした。イタリア女子の全米オープン優勝は初めてで、グランドスラムでは2010年に全仏オープンを制したフランチェスカ・スキアボーネ以来になる。  グランドスラムで初のオールイタリアン決勝は、その他でも異例の顔合わせだった。初めての決勝同士の対戦は全米オープンでは初めて、どちらが勝ってもメジャー初優勝の最年長記録。ペンネッタが身長172cm、体重58kg、ビンチは163cm、60kgと、パワーテニス時代としてはこれも異例な華奢な体格の対決になった。  ともに南イタリア出身で年齢は1歳違い。手の内は知り尽くしているだけに、立ち上がりは物静かな探り合いだ。ビンチはバックハンドが片手打ち、ペンネッタは両手打ち。ペンネッタが執拗にバックハンドを打たせてからフォアにダウンザラインを打ち込む作戦ならば、ビンチはバックのスライスを辛抱強くベースライン深くにコントロールする。エースとウィナーが交錯するハードコートの熱戦とは違う、2万3千人が入っているとは思えない静かな雰囲気で試合は進んだ。  先にチャンスをつかんだのはペンネッタだ。第5ゲームに15-40のブレークチャンスからグイグイと追いこみ、ビンチはここで6本までブレークポイントをかわしたが、7本目についにブレークされた。ペンネッタは一気に沈めにかかった。しかし、ビンチは第8ゲームの40-15から追い上げ、このセットで唯一のブレークポイントをものにしてブレークバックした。どちらも勝てるチャンスを信じた、粘りのラリー戦は迫力があった。そのままタイブレークにもつれ込み、短期勝負になれば、サーブ、ショットともに威力で優るペンネッタが有利。左右に際どく打ち分けるビンチの集中力も限界が近づき、ペンネッタが第1セットを奪った。  前日にセレナとの激闘を終えたばかりのビンチは心身ともに目一杯。ここで緊張の糸は切れたようだ。第2セットは一方的で、ストレートで決着がついた。ペンネッタは表彰のインタビューの中で「1カ月前から、これが最後のニューヨークと決めていた」と引退を表明する、これもまた、異例の幕引きになった。  今年のグランドスラムはすべて終わった。セレナが全豪オープンから全仏、ウィンブルドンと制し、年間グランドスラムが話題になった最後の全米オープンは、イタリアのベテラン勢の対決という意外な結末――セレナの全仏、ウィンブルドンの内容がよくなかったにもかかわらず、昨年活躍したユージェニー・ブシャール(カナダ)、ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)といった若手は伸び悩み、セレナの不安定に付け入ることができなかった。  決勝進出が初めて同士、まして1人は引退を決意しているベテラン対決になった今大会は、“セレナ1強時代”から次世代へ転換する狭間の大会、そんな印象を受けた。イタリアのテニスは派手な選手こそ出てこないが、女子国別対抗戦のフェド杯では2006年から4度もワールドグループ優勝を果たしている。ペンネッタもビンチも、テニス協会の育成システムから育った選手だ。関係者の地道な努力が思わぬ形で花を咲かせた。 文:武田薫