男女のベスト8が出揃った本日、男子では第3シードのアンディ・マレー(イギリス)が第15シードのケビン・アンダーソン(南アフリカ)に敗れる波乱があった。アンダーソンは持ち前の強烈なサーブをコントロール良く決め、鉄壁のディフェンスを誇るマレーに反撃の隙を与えず4時間18分の熱戦を制した。29歳のアンダーソンはグランドスラムで初めての準々決勝進出。また第12シードのリシャール・ガスケ(フランス)が第6シードのトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)を逆転で下し、こちらは2年ぶりに8強入りした。女子では第5シードのペトラ・クビトバ(チェコ)、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、フラビア・ペンネッタ(イタリア)が準々決勝進出を決めた。  女子でもうひとり、この日8強入りを決めたのが第2シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)。間もなく24歳の遅咲きの選手だ。かつては大き過ぎるバスト小さくする手術を受けたことで話題になったくらいだったが、2013年、いきなり6大会で優勝してスターダムにのし上がり、昨年トップ10に定着した。プレッシャーは何もないと言うのも、いまひとつ知名度がないためだろう。グランドスラムでは昨年の全仏オープンで決勝に進み、ウィンブルドンでベスト4に入ったくらい。この全米オープンだけ4回戦止まりだったのもあり、どうしても勝ちたかった4回戦だという。  対するサビーネ・リシツキはドイツ出身、フロリダキャンプ育ちの強烈なサーブの持ち主で、互いに譲らぬ激しい打ち合いになった。リシツキが奪った第1セットは1時間3分かかり、ハレプが奪い返した第2セットは53分。第2セットにハレプの脚、背中を痙攣が襲った。この日は気温30度を超す暑さで、炎天にさらされたコート上は40度を超えていただろう。そこを乗り越えての逆転勝利だが、ファイナルセットに入る前に2人の選手がコートから消えた。酷暑ルールが適用され、そこでハレプは息を吹き返した――この酷暑ルールは女子ツアーのWTAだけに適用されるものだ。酷暑指標(約30度)があり、それを超えると、選手の要望に応じて、第2、第3セットの間に10分間の休憩時間を取ることが出来る。このルールは男子のATPにはない。  今大会は初日から好天に恵まれ、日中は強い日差しで気温30度を超す日が続いた。シーズン最後のグランドスラムになる全米オープンの厳しさは、ここまで半年以上も世界を転戦してきた選手の体力が低下しているところにある。今年の大会は途中棄権者が続出し、男子は1回戦だけで10名がリタイア、この日まで計14人が試合途中でラケットを置いた。猛暑続きの気候が影響したことは確かだ。一方の女子は2人だけ。この日、ハレプはどうにかルール適用のタイミングまで持ちこたえ、ファイナルセットに入ってから、今度はリシツキが痙攣で動けなくなり勝負が決まった。  暑さに関しては、全豪オープンが大会独自のヒート・ポリシーを設け、指標(約40度)を超えた場合は、審判の判断で試合を中断、ショーコートは屋根を閉める決まりになっている。ウィンブルドンでは男子にも適用すべきだという話も出たが、記録の変遷を考えれば、出来る限りプレー条件を変えたくないという考えがあるのだろう。しかし、温暖化の影響もあってか、年々暑さは増すばかり。5年後、高温多湿の日本の8月初旬に開催される東京オリンピックはどうなるか。いまから心配だ。 文:武田薫