「あの騒動」から3週間が経ちました。キリオスとワウリンカの一戦で起こったあれです。 “Kokkinakis slept with your girlfriend… sorry to tell you that, mate”  世界中から厳しい批判を受けたこの事件、キリオスにはATPから処分が下されました。まず即時処分としてスポーツマンシップに反する行為1万ドルの罰金と+ボールパーソンへの暴言で2500ドル。そして更なる処分として半年間の執行猶予つきながら1か月の「ATP管轄大会(つまり全米とデ杯は除く)」出場停止処分と2万5000ドルの罰金が言い渡されています。 Nick Kyrgios hit with suspended 28-day ban and fine for Stan Wawrinka comments. Read here >> http://t.co/depXBNJe3I pic.twitter.com/QO86yx3sXw— Live Tennis (@livetennis) 2015, 8月 25  欧米では一大スキャンダルにまで発展した今回の件。全米直前、日本向けに行われた錦織の記者会見でも彼に対する質問が飛んだのをご存知でしょうか?質問なさったのはアメリカ在住の方だそうで、海外メディアっぽい質問だなあと思いました。海外メディアはトップ選手に対してよくその手の質問をするのです。中でもBIG4の方々は色々試合と関係ない質問もされたりするようで、テニス界を代表する者として毎度きちんとその手の質問に自分の言葉で意見を述べています。もちろんカンペを差し入れしてくれるような人はいませんので、ナダルのような素直な人が質問に答えるとボロボロ本音が出てしばしば物議を醸すのですが…錦織も今後さらにテニス界での地位が上がっていくようになれば、そういう質問が増えてくるかもしれませんね。 錦織「もちろん許されることではない。まだ若いので、しっかり教育してくれる人が周りにいればよいのでは。(キリオスへの対応を聞かれて)僕自身はまだ何もされていませんので。」  ちなみに錦織に先だって出ていたBIG4のコメントは以下の通り(詳細は文末のリンクにて) ◎フェデラー「彼は一線を越えてしまった。周りが彼に対してもっと厳しく接し、言い聞かせていくべき。」 ◎ナダル「彼はなぜそんなことを言ってしまったのか。(ナダル、ジョコビッチ、マレーが10代からTOP選手として動いていたことを挙げ)年齢は言い訳にならないんだ。彼は間違いを犯した。」 ◎ジョコビッチ「彼は罰則を受けた。彼はそれに値することをしたんだ。この厳しいレッスンで多くのことを学ぶだろう」  三人の言い方はいずれも厳しいものでした。そして全米前に行われたチャリティイベントで、ナダルがキリオスとペアを組むことを拒否したという報道が流れ、欧米ではさらに話題となりました(注:その後ナダルが否定し、誤報だったということになったのですが、もやもやは残ります)。完全にキリオスには悪童というイメージがついており、この試合でもキリオスの一挙手一投足を多くのカメラが追いかけました。セット間に目を閉じてリラックスするキリオス、また抜きを決めるキリオス、審判に抗議するキリオス…これら全てが舐めた態度というニュアンスで報道されてしまうのでしょう。AP通信の報道(リンク先:TENNIS DAILY様)でさえかなり否定的なニュアンスで報道しているのですから、欧米の各メディアではひどいことになってるのではないでしょうか。正直読む気にもなりません。 Simple. Stunning. #HotDog #Kyrgios #Murray #USOpen #BigAppleDreaming https://t.co/2eCeyNFdjg— Sky Sports Tennis (@SkySportsTennis) 2015, 9月 2  しかし騒動当時、唯一キリオスに対して批判的な見解を示さなかったのがマレーでした。 マレー「ニック(・キリオス)について悪いことは言いたくない。あいつのことは気に入っているからね。一番大事なことは、彼が今回起こったことから何を学ぶのかということだ」  全米でキリオスとの対戦が決まり、イギリスメディアを中心に再び質問攻勢にあったマレーでしたが、ついにキリオスに否定的な見解を述べることはなかったようです。 "I don't think he's a bad guy" Hear more from Murray on Kyrgios. Full interview at 2pm on @5liveSport pic.twitter.com/s0T45VGeIk— BBC Tennis (@bbctennis) 2015, 8月 30  その後、先述の錦織会見でも錦織は上の発言をした後、しばらく考え言葉を選びながらこう続けました。「完全に悪い奴ではないと思うし、あれだけタレントもある選手なので、更生してくれたらいいかなと思う。」またジョコビッチも、彼の行いについて非難はしつつも「彼は若く、皆が期待している選手の一人だ。彼のテニスはこの歳にしては目覚ましいものを持っている。自分は彼とはうまくやっているんだよ。コート外ではよく談笑するし、一緒に練習だってしていたんだ。」とフォローを忘れません。このような出来事があってもなお、多くの人がキリオスの素質に期待していることがよくわかります。昨年のWBや全米で見せてくれたプレーぶりはスケールが大きくしかも勝負強い、とても魅力のあるテニスをしていたものです。調子の波が安定して1試合通じて強いプレーを打ち出せるようになればナンバーワンの座も夢ではないと思います。  昨日はそのマレーとの対戦。過去3戦全敗と歯が立たなかった相手への挑戦でしたが、全力で打ち込むストロークはコートの一番奥に下がって鉄壁の守備を敷いたマレーの守りを何度となく打ち破りました。それでもやはり「BIG4」は一枚上手でキリオスは第2セットまでの9つのBPのうち1つしか取らせて貰えなかったのですが、第3セットは意地を見せて第10ゲームでブレイク、1つセットを奪い返しました。マレー戦4度目の挑戦にして初めてセットを取ったのです。敗れはしたものの、確かな進歩も見せてくれた一戦でした。  キリオスの試合には、あのレイトン・ヒューイットが姿を見せていました。先のデ杯でもキリオスの敗戦をカバーしてチームを勝利に導いた頼れる大先輩は、フェデラーがコメントで述べたような、キリオスを教え導く存在となっていくのかもしれません。だがヒューイットや周りの誰が配慮しようとも、最終的にどのような道を歩くかは本人のみぞ知るところ。果たして5年後10年後、キリオスのキャリアはどのようになっているのでしょうか。