土居美咲(日本)が第12シードのベリンダ・ベンチッチ(スイス)に7-5、6-7、3-6で惜敗。マッチポイントを3本握りながら、あと一押しできずに涙を呑んだ。  大雑把に言って、テニス選手には展開の魅力とショットの魅力の二つがある。二つとも兼ね備えた方がいいに決まっているが、土居の魅力はショットだ。小柄ながら、体重がしっかり乗ったフォアハンドのショットが小気味よく打ち込まれる。この日も伸び盛りの18歳、ベンチッチに打ち合いを挑み、ほぼ打ち勝っていたのだが……。  第1セット、第3ゲームから激しいブレーク合戦。先にサービスキープを掴んだのはベンチッチで、第8ゲームをキープして5-3とリード。しかし、土居は果敢に攻めた。第9ゲームのセットポイントを逃れると、反撃に出て第10ゲームをブレークバック。得意のフォアハンドで攻めて攻めて第12ゲームでもブレークし、第1セットを奪った。ベンチッチは前哨戦のトロントで、世界ランク1位のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、同2位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)を倒して優勝してきた。そこで自信を深めたはずのショットを土居は巧く交わした。攻め込まれると、ロブやムーンボールで逃げながら、改めて勝負に持ち込んでフォアを叩きこむ。これでベンチッチは我を忘れ、ラインジャッジ、レフェリーに当たり散らすなど、土居にとっては絶好のチャンスが訪れた。  第2セット、11番ショーコートを沸かせたのはベンチッチ5-2のリードからだ。一つブレークバックして迎えた第9ゲーム、土居のサービスゲームが長かった。40-15から追いつかれ、そこからデュースを10度繰り返し、セットポイントを8度逃れてキープした土居は、その勢いのまま第10ゲームをブレークバック。思うようにいかずに泣き出してしまったベンチッチを尻目に第11ゲームをキープして6-5と逆転すると、第12ゲームで40-0と3本のマッチポイントを握った。しかし、このチャンスがあっという間に手から滑り落ちた。 「勝てると思ったのか、あそこでテンポが速くなった」  この絶好機で5連続ポイントを許して凌がれると、続くタイブレークを落とし、ファイナルセットも第2ゲームを先にブレークされた。第1、第2セットでは後手を踏みながらも追いついたが、ファイナルセットは5本のサービスエースを決められ、逃げられてしまった。  第2セット第12ゲームの3本のマッチポイントは確かに惜しかった。しかし、第1セットを逆転で奪った勢いをそのまま繋げられず、第2セットの第1ゲームをいきなりブレークされたあたりに問題があるだろう。土居は過去、2014年の全米でビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、今年の全仏でアナ・イバノビッチ(セルビア)、8月のスタンフォードでアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)という格上と対戦した際、いずれも第1セットを奪いながら逆転で敗れている。ショットは十分に通用している。残る課題は、集中力をいかに持続させるか。欲がない大人しい性格だけに、よりプレッシャーをかけたトレーニングが必要かもしれない。  この日行われたそのほかの試合では、女子ダブルスのクルム伊達公子、青山修子のそれぞれのペアは初戦敗退。男子では第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)、第8シードのラファエル・ナダル(スペイン)、昨年優勝のマリン・チリッチ(クロアチア)、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)らは3回戦に駒を進めたものの、若手の人気選手、グリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)は敗れた。女子では年間グランドスラム達成を狙う第1シードのセレナ、第25シードのユージェニー・ブシャール(カナダ)らが勝ち上がっている。 文:武田薫