期待の錦織圭が、大会初日の第1試合で敗退。準優勝で沸かせた昨年から一転、滞在わずか3時間14分でフラッシング・メドウを後にした。  相手のブノワ・ペール(フランス)は、錦織と同じ1989年生まれ。ビッグサーブの持ち主として期待されながら、気が短く、ムラのあるプレーが災いして最高ランキングは2年前の24位、現在は41位。これまでの対戦成績は2勝0敗で、第4シードに座った錦織にとって決して恐れる相手ではなかった。ただ、このところの錦織に緒戦は鬼門――負けこそしなかったが、ウィンブルドン、ワシントンでは、いずれも緒戦でフルセットを強いられ、ペールにはそうした情報もインプットされていただろう。  第1セットの第3ゲーム、ペールは錦織が警戒していたバックハンドから勝負を賭け、先にブレークに成功。錦織は続く第4ゲームに0-40と3本のブレークポイントを掴んだものの乗り切れず、3度のデュースの末にブレークバックのチャンスを逃した。先手を奪ったペールは、サーブ力を生かし、そのまま第1セットを奪取。大会前の会見で、錦織はこう話していた。 「世界ランク20、30位くらいの選手ならしっかり集中して良いテニスが出来ていれば勝つ自信は大いにあります」  第2、第3セットは、錦織らしい落ち着いたプレーでサービスキープを続け、ワン・ブレークを守って形勢逆転しているが、やはり、その集中力に問題があったのだろう。いつもなら、この辺で集中力が切れるペールも、この日は辛抱強かった。7月のスウェディッシュ・オープンでツアー初優勝を飾り、そこで得た自信が後押ししたという。 「勝とうが負けようが、テニスを楽しんで来いとコーチに言われた。いい感じで試合に入ったと思うが、正直なところ、あのタイブレークはラッキーだった」  最大のポイントは、錦織が2-1でリードして迎えた第4セットだ。互いにブレークポイントを与えずタイブレークに突入すると、錦織がいきなりリターンエースでミニブレークし6-4と2本のマッチポイントを握った。ここで一気に決着をつけたかったが、まずは相手バックサイドのオープンスペースに痛恨のフォアハンドミス。2本目は時速196㎞のサーブでかわされて6-6とされ、逆にそこから2ポイントを奪われて6-8でセットを落とした。フルセットにもつれ込めば、再びペールのサーブが生きてきた。第3ゲーム、得意のバックハンドを2本決めたペールは、そこからしっかりサービスキープ。最後はこの日最速の、時速214㎞のサービスエースでピリオドを打った。予想外の緒戦敗退に、会場に駆け付けた大勢の日本人ファンは声もなかった。 「相手が積極的でなかなかリズムをつかめなかった。体調には何の問題もなく、自分のプレーが悪かったというより、相手に好きなプレーをさせてしまったように思う」  獲得ポイント数はペールの156に対し錦織が160。マッチポイントを握りながらの敗戦など、錦織らしくないちぐはぐな展開は、夏の故障、休養によるブランクの影響だろう。  次はデビスカップ・ワールドグループのプレーオフで敵地コロンビアのクレーコートに乗り込む予定だ。  その他の日本勢では土居美咲が元世界ランキング5位のベテラン、ダニエラ・ハンチュコバ(スロバキア)をストレートで倒し、全米オープンでの初勝利を飾った。男子では第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)、昨年優勝のマリン・チリッチ(クロアチア)らが順当勝ち、第8シードのラファエル・ナダル(スペイン)も進境著しい18歳のボルナ・コリッチ(クロアチア)を退けた。女子では、この大会に年間グランドスラムのかかる第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が危なげなく勝ち進んでいる。 文:武田薫