「今シーズンのジョコビッチは凄いよ。大きな大会で全て優勝している。自分でも言っているように最高のテニスをしているね。でも彼は全仏で優勝したことがない。彼との決勝は二人ともナーバスになるに違いない。決勝はどうなるか分からないね。僕との試合を彼が喜ばない事は分かっている。僕の攻撃的なプレーができれば彼は苦しむだろう。」 これはWOWOWさんで放送された決勝前のワウリンカの会見内容をそのまま載せさせて頂いたものです。下馬評では圧倒的な優勝候補であったジョコビッチに対して、鬼神と化したワウリンカと自らに潜むプレッシャーが大きな壁となって立ちはだかりました。 まずはワウリンカに対して心からおめでとうと言いたいです。昨日は終始攻めの姿勢を崩さず自身の強みを最大限に発揮して自ら掴みとった素晴らしい勝利だったと思います。2本目のチャンピオンシップポイント、代名詞でもあるバックダウンザラインでのWINNERは多くの人の記憶に残る勝利となるでしょう。 さて、スタッツを見るとWINNER60本が大きく目をひきますが、自分としては記録には残らないブロックリターンの精度こそが昨日の勝利の大きなポイントになったのではないかと考えています。最近の試合ではワウリンカ、フェデラー、錦織(も?)が良くブロックリターンを使っているのを見ますが、結構な確率で抑えきれずアウトになるか、浅くなって3球目で決められるか、という感じだったので、ブロックリターンの有効性については懐疑的だったのですが、昨日の試合は違いました。 多くのブロックリターンがコート深くに返り、ジョコビッチに3球目の強打を許しません。結果としてジョコビッチのサービスゲームで互角のラリー戦が多くなり、そこからのWINNER、ブレイクが生まれる事となりました。 また昨日は厳しい体勢からのフォア/バックのスライスも深く返っており、これもジョコビッチを苦しめていました。とはいえワウリンカのスライスはフェデラーの地を這うようなスライスとは違い、結構浮いてしまうので毎度ヒヤヒヤしながら見ていましたが、昨日のジョコビッチはこの浮いたスライスを攻めきる事ができませんでした。 昨日はこれ以外にも、ドロップショットが甘くなりWINNERで返されたり、ドロップショットに対してワウリンカが何とか返した返球に対する攻めが甘くなった事でその後ラリーが続いてしまい、結果ポイントを落とすという、これまでの試合では見られなかったような光景も見られました。 戦前ワウリンカが語った通り、ジョコビッチはかなり「ナーバス」になっているように見えました。昨日のジョコビッチのプレーそのものが、いかにジョコビッチにとっての全仏タイトル獲得という目標が大きく、且つその為に多くの時間を割いていたかを物語っていました。全仏は直近4年間で4強2回、準優勝2回。2011年は年初からの連勝を41でフェデラーに止められ、2012.13.14はクレーキングナダルに後一歩のところで敗れ、2015年はそのナダルを倒し、今季クレーで自身と共に無双を誇ったマレーも倒し、悲願まで後一歩。 しかし、これらの過去を含む全仏での苦難、苦難を乗り越える為の努力、2015年ここまでのハードルはしっかり越えてこられたという事実、ジョコビッチの頭の中には過去の対戦成績など微塵もなかったと思いますが、負けられない一戦であった事は事実。昨日のワウリンカは誰が見ても凄かったですが、ジョコビッチを取り巻く異常なまでのプレッシャーがジョコビッチの「安全な攻め」を呼び、それがワウリンカに付け入る隙を与えたと言っても過言ではないと思います。 そしてこの事はフィリップシャトリエのお客さんの多くも感じていたように思います。準優勝者発表から暫く鳴り止まなかったあの拍手。「私達はあなたの全仏のこれまでの苦難と全仏に対する想い、そしたあなたが十分過ぎる程強い事は分かっている。今日は負けてしまったが、あなたなら必ずできる。だからまた来年戻ってきて、我々の目の前で生涯グランドスラムを達成して下さい」と言っているように聞こえました。 ジョコビッチも笑顔で応えてはいましたが、「皆さんありがとう。でも今日の勝者はスタンだ。僕はいいからスタンを讃えてくれ」とでも言っているかのように見えました。それでも鳴り止まない拍手に対して見せたジョコビッチの涙は本当に印象的で感動的でした。 さて、話をワウリンカに戻しますが、少し前に選手プロフィールのシングルスタイトル数「9」というのを見て「嘘でしょ!」とビックリした事を思い出して、これだけタイトル数が少なくてGS2つ取った人は過去いたのか気になり調べてみました。 以下の表はGSタイトルが2つ以下の選手における、GS決勝進出回数とATPツアー全体(GS含む)の勝数、及び決勝進出回数です。GSタイトルが2つの選手は全員載せています。GSタイトルが1つの選手は数の関係で現役選手とお馴染みの選手だけ載せています。また、現役選手に限り、GS決勝経験者も載せています。 こう見るとワウリンカの特異性がハッキリすると思います。GS2つ取っている選手の中ではATP優勝回数、決勝進出回数ともに最下位です。それどころか表全体で見ても、ATP優勝回数、決勝進出回数が下から3番目なんです。この表の示すところは、GS2つ取れるのであれば、通常のATPツアーでもっと優勝していてもおかしくない、という事なのですが、通常ツアーはそこまで勝てないけど、GSは勝てる理由をどう説明すればいいんでしょうか?うーん。。実力はあるのにムラッ気が凄まじい、で片付けてもいいような気もします(笑)というのも、仮に次のウィンブルドンでワウリンカが1回戦で負けても、「ワウリンカならあり得るよね」で終わっちゃいますよね。そんなヤンチャなところも彼の大きな魅力だと思います。 ちなみに、あまり意味はないと思いますが、上の表だけをサマリーで見ると、ATP優勝回数の合計が420、うちGS優勝回数が23回なので、ざっくり言うとツアー20勝すると、GSタイトル1回取れるよ、という計算になります。但しこれはあくまで通常のGSチャンピオンの話であって、マレー以外のBIG4で言うと、フェデラーが(17/85)、ナダルが(14/65)、ジョコビッチが(8/53)となっており、如何に通常の時代であればもっとGS優勝できたであろう選手たちが割を食ったかお分かり頂けると思います。(まあ見方を変えればGSこそ真の勝者を決める大会になるので、本当に強い選手がタイトルを独占するのは当たり前なのですが) これが如実に現れるのが、GS決勝戦における勝率です。この表でいうと、マレー、ロディック、チャン、イワニセビッチが分かりやすいです。所謂レジェンドが同じ時代にいるかどうかがGS決勝戦の勝率の分岐点となります。 マレーのGS決勝勝率:25%(8戦2勝)。Big4の影響をもろに受けています。フェデラーが68%(25戦17勝)。ナダルが70%(20戦14勝)。ジョコビッチが53%(15戦8勝)(意外と低い!) ロディックのGS決勝勝率:20%(5戦1勝)。全盛期フェデラーの最大の犠牲者として有名です。ウィンブルドンで3度、全米で1度、計4度のグランドスラム決勝で破れた結果、生涯のグランドスラム獲得数が1での引退となりました。スマッシュをスマッシュで返しちゃう時代ですからね。こういったスポーツ界における時代のめぐり合わせというのは本当に怖いものです。 チャンのGS決勝勝率:25%(4戦1勝)。ベッカー、サンプラスに敗れています。ベッカー:60%(10戦6勝)、サンプラス:78%(18戦14勝) イワニセビッチのGS決勝勝率:25%(4戦1勝)。アガシ、サンプラスに敗れています。アガシ:53%(15戦8勝)ちなみにアガシはサンプラスに4度決勝で破れています。 こういった形で、多くのGSチャンピオンが他のレジェンドによって次のGSタイトル獲得を阻まれてきた中で、ワウリンカの勝率100%は立派だと思います。当然まだ母数が少ない且つ現役続行中なので、他のチャンピオンとの単純比較はできませんが、これから何度GS決勝進出し、いくつのタイトルを獲得できるのか、要注目です! さあ本日付けの世界ランキングは以下のようになりました。 1位:ジョコビッチ 2位:フェデラー 3位:マレー 4位:ワウリンカ 5位:錦織 6位:ベルディヒ 7位:フェレール 8位:ラオニッチ 9位:チリッチ 10位:ナダル 11位:ディミトロフ 12位:ツォンガ これに対する所感です。かなり現在の力を正確に表しているランキングのように見えます。その上で、1~4位グループと5~8位グループ、9~12位グループでそれぞれ差があるように感じますが、ツアー全体のTOP12として揺ぎないと思います。ここに割って入る可能性が感じられるのはキリオス(25位)とティエム(30位)の2名。(この二人を加えて14人で総当りのリーグ戦とかやったら面白そうだなー。見たいなー。最終戦の仕様変わらないかなー。デルポトロも早く戻ってきて欲しい!) 1~4位グループで見ると、これから芝シーズンに入る事も考慮に入れると妥当だと思います。5~8位グループも、フェレールとラオニッチの上下関係以外は妥当に見えます。(調べてみたらこの2人の戦績はフェレールの4戦全勝ですが、最後の対戦が2012年のマドリードまで遡るんですね) ナダルの10位はちょっと信じられませんが、今年だけでいっても、ジョコ、マレー、ワウリンカ、ベルディヒ、ラオニッチに負けていて、勝ったのはベルディヒとフェレールのみだけ、という事を考えると妥当でしょう。チリッチとディミトロフは良く分かりませんが、13位以下の選手でこの二人に勝てそうな選手が見当たらないので妥当なんでしょうね。 さあ、見どころ満載だったクレーシーズンが終わり、今月末にはいよいよウィンブルドンです。ジョコビッチの連覇か、フェデラーの返り咲きか、マレーが再びイギリスを興奮の渦に巻き込むのか、ナダルの復活なるのか、全仏同様全く読めませんがとにかく楽しみです!!!