「クレーキング」ナダルを粉砕し一つの時代を終わらせたジョコビッチ。だが彼の優勝への道はまだ険しいものでした。誕生日が2週間違いの永遠のライバル、マレーとの激突となった準決勝は二日がかりにもつれ込みます。信じられないほどにクレーに順応したマレーは第3,4セットとストローク戦を支配し持てる全ての武器をジョコビッチに浴びせてきました。迎えた最終セット、ジョコビッチは異次元のプレーを見せてマレーを粉砕したもののこれは決勝のことを考えると使ってはいけない禁じ手でもありました。確実に気力体力を削られたジョコビッチは今日の決勝を3連戦で迎えることになったのです。  加えて相手はバブリンカでした。フェデラー戦でもツォンガ戦でもバブリンカのテニスはほとんど完璧でした。集中しきったバブリンカはジョコビッチにとって最大の脅威です。ジョコビッチが5セット目を戦った回数はフェデラーとマレーに対して3回ナダルに対して2回でしたがバブリンカに対してはなんと「5回」。試合前から苦戦の予感はありました。  第1セットは激しいバトルの末にジョコビッチが奪ったものの、バブリンカの出来は悪くなくこれからの更なる激戦を予感させる好ゲームでした。だがジョコビッチは決勝戦で第1セットを奪取した際の成績が過去41勝1敗。リードを奪ったジョコビッチを止めるものはいないようにも思えました。  しかしジョコビッチは疲れからか第2セット思うようにペースが上がらず、代わってバブリンカの豪腕が爆発します。15本のウィナーを奪ってジョコビッチを徐々に追い詰めていくバブリンカ。だが最後の一本が決まらずジョコビッチを崩すことはできないままゲームが経過していきます。ネットを叩いて悔しがるシーンもありました。それでも攻め続けたバブリンカはついに第9ゲームに勝機を見出しました。バックハンドがジョコビッチの横を抜き去り、続けてフォアハンドをDTLに叩き込んで連続攻撃。最後は激しいロングラリーを制して1セットオール。ジョコビッチは自らの不甲斐なさにラケットを叩きつけ破壊してしまいます。第2セットのジョコビッチはウィナーの2倍以上となる14本のUEを犯していました。  強いときのバブリンカの魅力は豪腕だけではありません、守備力も素晴らしいのです。錦織ファンなら全米全豪の対決で嫌というほど思い知っていると思います。ウィナーを取れないうちはとことん耐え、ここぞのチャンスを逃さずフォアバック両方から大砲を叩き込んで仕留めるそのショット選択が絶妙でした。超一流選手のジョコビッチを相手にただ返すだけでは耐えられません。しっかり深いショットを打ち込んで守りつつも相手にプレッシャーをかける。それをジョコビッチ相手にできるのがバブリンカという選手でした。しかもバブリンカの強打はフラット気味にコートに突き刺さります。ジョコビッチを押し込むにはこれ以上ない球でした。  同じようにフラットボールを操る選手にベルディヒがいて、モンテカルロの決勝ではナダル戦で削られた後のジョコビッチを苦しめました。いくつかのブログで触れられていたのですがこの決勝で見られたベルディヒのプレーこそがジョコビッチ対策だと言わました。それをより高次元でできる選手がここにいたのです。ベルディヒと違って一度集中してしまえば攻め切れない、メンタル弱いなどの欠点もありません。 HOT SHOT! #Wawrinka fires off an incredible forehand down the line winner en route to breaking #Djokovic. #RG15 https://t.co/X28TUNCjCZ— Roland Garros (@rolandgarros) 2015, 6月 7  第3セットに入ってもバブリンカのプレーは止まらず、このプレーを皮切りに続くポイントではバックハンドのランニングショットをDTLに叩き込みます。ジョコビッチは一歩も動けず0-40。ジョコビッチはドロップに逃げましたがこのドロップは甘くなり、バブリンカは素早く詰めて叩き込みました。第6ゲームでバブリンカがブレイク。そのまま第3セットを奪ってついにジョコビッチを追い詰めました。  第4セット、後のないジョコビッチは自らに鞭打って再びプレーレベルを上げようとします。バブリンカにミスが出た隙を逃さずジョコビッチはブレイクに成功。このまま死闘はフルセットに持ち込まれるものかと思われました。だが過去の戦いと同じ轍を踏むものかと逆襲したバブリンカも気合を入れ直し激しいラリーが展開されます。やはり今日のジョコビッチは耐え切れません。スライスの打ち合いも交えた長い長いラリーの末にガッツポーズでベンチに向かったのはバブリンカでした。  両者の勢いの差は明らかでした。続く第7ゲームもバブリンカが再びジョコビッチを追い詰めます。だが今度はジョコビッチが踏ん張ります。ネットに出て飛びついてボレーを決めBPを凌ぐと、デュースからは1stサーブを打ち込んでキープ成功。ネットプレーはかつてジョコビッチが苦手としていたプレーですし、かつては1stサーブも貧弱なものでした。昔は弱点だった長年の鍛錬によって最も苦しい場面でも使える武器となっていました。このゲームには王者の強さを見ました。  素晴らしいキープで勢いづいたジョコビッチは0-40と最初で最後の逆転のチャンスを得ましたが、ここをバブリンカに凌がれて万事休す。またジョコビッチのサービスゲーム。ラリーを嫌がって前に詰めたジョコビッチでしたが、バブリンカのパッシングショットがその苦境を咎めます。追い詰めたバブリンカがブレイク成功!最終ゲームも激しい戦いとなりましたが、最後までバブリンカが崩れることはなく、2度目のチャンピオンシップ・ポイントで59本目のウィナーを突き刺してついに決着をつけました。 At the end of a long battle, a hug between @stanwawrinka & @DjokerNole. Watch match point. #RG15 https://t.co/9IlpYL4Jdc— Roland Garros (@rolandgarros) 2015, 6月 7  ウィニングショットはバブリンカの代名詞、バックハンドのDTLでした。  またしても悲願に届かなかったジョコビッチ。表彰式でシャーレを受けとったジョコビッチの目には涙が浮かんでいました。それに対していつまでも鳴り止まない会場からの拍手。とても美しく、そして同時にジョコビッチの苦しさを象徴するような光景でした。強敵続きの終盤戦はジョコビッチをもってすらあまりにも過酷でした。それでも、いくら絶望を体験しても、ジョコビッチの戦いが終わることはありません。彼は今までと同じように、また来年の全仏まで戦い続けるのです。  トロフィーを掲げるバブリンカ。大会前は生涯グランドスラムを目指すジョコビッチがその先輩であるアガシやフェデラーと並ぶ11度目の参戦であることが話題となりましたが、実はバブリンカも初めて本戦に進んでから11度目となる今年の全仏でした。  大会前数週間前には離婚とそれに伴うスキャンダルがヨーロッパ中を駆け巡りました。全豪とモンテカルロMSの優勝ポイント失効により一時10位までランキングは落ちました。この優勝は全ての雑音を振り払っての勝利でした。二週間通して本当に素晴らしいプレーを見せてくれたと思います。