6年連続、通算10度目の優勝を狙ったラファエル・ナダルが、第1シードのノバク・ジョコビッチに敗れた。ナダルは初出場だった2005年からこれまで全仏オープンでは1度しか負けておらず、これで通算70勝2敗。初優勝を目指すジョコビッチの準決勝の相手は、この日、ダビド・フェレールを倒した第3シードのアンディ・マレーになった。  立ち上がりから、ジョコビッチが攻勢に出た。第1セットの第1ゲームをラブゲームでキープすると、第2ゲームも厳しいリターンで追い詰め、いきなりブレーク。第4ゲームも連続でサービスブレークに成功して4-0リードと、まるで前日のツォンガvs錦織の試合の再現のような展開になった。しかし、配役は違った。  これまでグランドスラムで7度優勝しているジョコビッチだが、この全仏のタイトルだけは持っていない。その悲願に向けて準々決勝で早々にナダルと対戦するドローは厳しいものだが、タイトル奪取のためにはいずれ避けられない壁。そして、ナダルにすれば、このローランギャロスのタイトルだけはどうしても譲れない……立ち上がりから激しい火花が散ったのは当然の成り行きだった。  この日、ナダルは29歳の誕生日を迎えた。全身全霊で戦うプレースタイルに加齢は大きなハンディだが、気持ちのこもったプレーで反撃に出た。左右から仕掛けてくるジョコビッチに対し、深く高く弾むフォアハンドで散らし、ドロップショットを仕掛けられれば追いついてアングルに打ち返す。逆に4ゲーム連取をして流れを元に戻し、満場のセンターコートにナダル・コールを呼んだ。ジョコビッチは立ち上がりを意識して攻め続けた。ナダルがサーブに立った第10ゲーム、ジョコビッチがセットポイントを3本掴んだが、ナダルは前後左右に走り回ってそれをクリア。本来の王者に戻ったかに見えたが、第12ゲームの30-15で痛恨のミスが出た。チャンスボールのスマッシュがアウトに。そこから2本のセットポイントは守れたが、6本目を決められて先手を許した。このセットだけで1時間5分を要した。  ここまでの対戦成績は23勝20敗とナダルがリードしていたものの、最近6試合ではジョコビッチの5勝1敗。一方、グランドスラムの対戦はナダルが最近6試合で4勝し、全仏では6戦全勝。また、クレーコートでの対戦もナダルが14勝5敗と勝ち越しながら、昨年からはジョコビッチが2勝1敗で、その1敗だった昨年の全仏では第1セットを奪っている。直近のモンテカルロでもストレート勝ちしたことで、ジョコビッチには自信があり、その戦術の一つがドロップショットの多様だ。前の試合のリシャール・ガスケ戦から盛んに使っており、例年より滑ると言われる今年のサーフェスから編み出された戦術かも知れない。ドロップショットで前を意識させ、ナダルが得意とするベースライン後方からの打ち合いを牽制する意味はあった。  第2セットはサービスキープで進んだが、ナダルは相手サービスゲームでほとんどポイントが取れなかった。ジョコビッチが繰り出す左右からの圧力が、第8ゲームに出たのだろう、2度目のデュースで打ち負けてブレークを許した。第3セットはやや一方的になったが、前2セットのブレークポイントはジョコビッチの計11に対し、ナダルは第1セットの5本だけ。サービスゲームで迎えた第7ゲームはラブゲームでブレークされ、マッチポイントはダブルフォルト――ナダルの壁が2時間27分で崩れた。  ショックが隠せなかったナダルだが、試合後の会見では来年の雪辱を誓っていた。 「また来年がある。ローランギャロスに戻って来て、またこの大会で勝てるようになるために出来る限りの努力をしたい。出来るかどうか分からないが、そうなるように頑張る」  ジョコビッチの初優勝までには、まだアンディ・マレー、さらにはスタン・ワウリンカかジョー・ウィルフライ・ツォンガという分厚い壁が残っている。それはそれとして、10年間で1度しか負けなかったナダルの敗戦は、これからのテニス地図に大きな影を投げることだろう。男子に先立って行われた女子の準々決勝では第1シードのセレナ・ウィリアムズと第23シードのティメア・バシンスキーがストレートで勝ち進んでいる。4日は女子の準決勝2試合が行われる。 文:武田薫