錦織圭が嫌な相手を振り切って2回戦を突破、徐々に視界が晴れてきた。  この日の相手、イバン・ドディグは世界ランク86位と格下だが、試合前の気分は良くなかっただろう。錦織はこれまで4度対戦。最初の対戦だった2012年のデ杯で7-5、7-6、6-3と手こずり、翌年の2度目には負けている。昨年の全米オープンで決勝を戦ったマリン・チリッチと同じクロアチアの選手というところに、それ以上の嫌な感じがあった。錦織に関する情報を、実感とともに把握しており、そんな立ち上がりになった。  錦織のサーブで始まった第1セット、第2ゲームにいきなり時速199㎞のフラットサーブを叩きつけてきた。この第2ゲームのラリーは1本だけ。球脚の速いコートサーフェスに乗じ、錦織の立ち上がりを攻めこむ意図がありありと見て取れた。身長が198㎝あるチリッチと違い、ドディグは183㎝でサーブの破壊力はそこまでではない。その代わりに俊足でショットも巧みで、特にローボレー、ハーフボレーを器用にこなす。錦織にリズムをつかませないように、盛んにサーブ&ボレーを仕掛けてきた。  ドディグはジョアン・ソウザ(ブラジル)との1回戦ではほとんど使わなかったサーブ&ボレーを多用し、多くのポイントを捻り出した。ネット攻撃も1回戦の16回から34回と倍増させている。この戦術の中で、第3ゲームを早々にブレークされた錦織は、すぐ第4ゲームをブレークバックしながら、再び第5ゲームをブレークされて第1セットを奪われてしまった。  このオフ、錦織はサービスの改善に取り組み、その成果は確かに見えているようだ。しかし、錦織は本来がリターンからゲームを作り上げていくオースドックスなストローク・プレーヤーだ。第1セットの錦織のアンフォーストエラーがドディグの倍の12だったあたりに、ドディグの戦術がハマっている様が窺えて嫌な流れだった。  第2セットは互いに譲らずサービスキープで進んだが、ポイントになったのは相手サーブの第12ゲームだ。錦織が30-0とチャンスをつかみかけた場面で、やや甘いフォアハンドのストレートがネットを叩いた……しかし、そのコードボールがポロリと向こう側に落ちた。思わず天を仰いで苦笑いした錦織。格下の2セットアップはプラスアルファのエネルギーをもたらすだけに、この幸運で40-0としたのは大きい。2本目のセットポイントで思い切りリターンを決めて追いついた。  第4セットも先にサービスブレークされるなど、順調に逆転したわけではなかった。 「自分のサービスゲームでプレッシャーを掛けられ、嫌なところでサーブ&ボレーを使われた。難しかったですね。ストローク戦ではポイントを取れていましたが、とにかく勝つことが大事なので、よかったです。サーフェスにもだいぶ慣れてきました」  1回戦のニコラス・アルマグロ(スペイン)も同じだったが、立ち上がりに早い展開に持ち込むという“錦織対策”が出来上がっているようだ。そこを辛抱してラリー戦に持ち込めれば、錦織自身の言葉を借りれば「勝てない相手はいない」。そのカギは、やはりリターンゲームでのリズムになるだろう。次の相手スティーブ・ジョンソン(アメリカ)とは、前哨戦のブリスベンを含め2戦2勝。ビッグサーブ、ビッグショットの持ち主だけに要警戒ではあるが、サーフェスにも慣れてきたとは心強い。視界が晴れてきた。  グランドスラムで初の3回戦進出をめざした添田豪は、フェルナンド・ベルダスコ(スペイン)と対戦しストレート負け。日本勢で残るのは、シングルスの錦織、女子ダブルスのクルム伊達公子だけとなった。  男女の第1シード、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、セレナ・ウィリアムズ(アメリカ)などは勝ち上がったが、女子第8シードのカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)は2年前にこの大会を連覇したビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)にストレートで敗れた。アザレンカは昨年、左足のケガで9大会にしか出場できず、ランキングを44位まで下げていた。 文:武田薫