出だしからどうもフェデラーの調子がおかしい。過去3戦のフェデラーとはまるで別の選手がそこにいました。軽やかなライジングは影を潜め、素早い攻撃を繰り出すこともなくただ弱いストロークを繰り出すだけのフェデラーがいたのです。乗れないフェデラーを尻目にバブリンカはエンジン全開で攻撃を繰り出します。ファーストサーブのコントロールにこそ苦しみましたが入ったときのポイント獲得率は100%。ストロークでも自分から全く攻められないフェデラーを尻目に次々と強打を繰り出して2度のブレイクを奪います。結局第1セットは6-4でバブリンカが奪いました。  第2セットも相変わらずフェデラーのストロークは戻ってきません。だがフェデラーも方針を変えてストロークに不安を抱えながらもサーブとボレーを頼みにネットプレーを強行するようになりました。セカンドサーブを自由自在に操りバブリンカのミスを誘い、多少厳しい状況でもネットに突撃します。このセットだけで14回もネットを取ったフェデラーはそのうち10回をポイントにつなげバブリンカにブレイクを許しません。不調のフェデラーですが勝ちたいという執念だけはいつもどおりでした。 Video: amazing reactions! #Federer nails two brilliant volleys. #FinalShowdown http://t.co/kRsZ9v4cIO http://t.co/54gc3pTJK3— TennisTV (@TennisTV) 2014, 11月 15  逆にサーブの精度に苦しむバブリンカが毎ゲームのようにピンチを背負うようになりました。しかしフェデラーのストロークも戻ってきません。ひたすらフェデラーのバック側に入れるだけのバブリンカのセカンドサーブに対し、フェデラーもスライスリターンを繰り出すことしかできない泥試合になってきました。試合はお互いキープを続けて第11ゲームに入ります。バブリンカはタイブレークに向けてファーストサーブをしっかり入れてきましたが皮肉なことにこれがことごとく返されてしまい大ピンチ。0-30とされたバブリンカは慌ててネットに詰めて決めようとしましたがやや弾道の低いボールをスマッシュに行ってミスしてしまいました。フェデラーがブレイクして7-5で第2セットを取り返します。  試合は勝負の第3セットに入りました…がここで事件が起こりました。ネットに詰めたフェデラーに対してバブリンカの返球はサイドアウト。しかし主審がオーバーコールをかけてINの判定をしました。フェデラーがこれにチャレンジをすれば当初の判定通りサイドアウトだったのですが、フェデラーには主審のコールが聞こえずプレーを続行してしまいました。0-40になって自分が最初のポイントを失っていたことに気づいたフェデラーは猛抗議しますが当然時既に遅し。バブリンカがあっさりブレイクを決めて大きな大きなリードを奪ったのです。フェデラーは重すぎるビハインドを背負うことになりました。  だがリードを奪ったバブリンカにとってもギリギリの戦いが続いていました。フェデラーの敵は審判でしたがバブリンカの敵は観客でした。フェデラーを贔屓する観客達がフェデラーに大きな声援を送るだけでなく、バブリンカのサービス中にも容赦なく歓声を上げて集中を乱してきます。  バブリンカはこのセットもファーストサーブに苦しみキープは綱渡りでしたがフェデラーにブレイクバックは許しません。弱気になった瞬間一気にに押し切られるだろう極限下で、バブリンカは一心不乱に攻め続けることで自分を保っていたのです。フェデラーのミスにも助けられ2個のBPをしのいだバブリンカが第8ゲームをキープします。フェデラーも続くサービスゲームをキープし、バブリンカのサービング・フォーザマッチ。  バブリンカはこのゲームでもひたすら攻めを貫きます。40-30とMP、しかしここでバブリンカは攻め急いでしまいました。2度のMPをセカンドサーブでネットダッシュする無謀な攻めで潰してしまったのです。それでもバブリンカ3度目のMP、今度はファーストサーブを突き刺してネットに向かいましたがこの土壇場でフェデラーがリターン、パッシング、強打全て完璧にこなしてしのぎました。バブリンカあと1ポイントが取れません…3回のうち一度だけでも深呼吸してベースラインで打ち合いをすればおそらくバブリンカが勝てただろうに。またしてもネットに突進するバブリンカに今度はフェデラーのバックDTLが襲いかかります。最後は鋭くスライスで切り捨てた低いボールをバブリンカが拾いきれずボールはネットへ。土壇場でバブリンカの攻撃は破られました。フェデラーが執念のブレイクバックで5-5。  追いつかれたバブリンカもここで諦めるわけにはいきません。続くフェデラーのサーブで15-40と大チャンス!しかしこの窮地で崩れないのは流石フェデラー。ファーストサーブはラインを掠めるように突き刺さり、セカンドは大きく跳ねてバブリンカの返球を妨げます。客と揉めるバブリンカに対して会場からは非情にもブーイングが飛びます。フェデラーもバブリンカも最後それぞれのサービスゲームをキープして運命の最終セットタイブレークへ。  バブリンカが太ももを気にします。フェデラーも顔を歪めます、足の運びが重くなります。それでもお互い来週に悲願のデビスカップ決勝があることなどすっかり忘れたかのような、死力を尽くした戦いが展開されました。バブリンカがリターンを叩けばそれをかわしたフェデラー右手一本でパッシングショットを入れる。リードを奪ったフェデラーに今度はバブリンカがパッシングショットを打ち返して追いつく。再びネットを取ったバブリンカに対するフェデラーの返球はアウト…と思ったところからもの凄いスピンで落ち、ラインを掠めます。  そして死闘の末バブリンカが6-5で4度目のMPを握りました。だがここからがフェデラーの凄みでした。まずファーストサーブをしっかり入れて追いつくと続くポイントでは一気にネットに詰め完璧なボレーを決めてみせます。フェデラーが初めて手にしたMP。 Video: match point. A moment of #Federer genius to seal a brilliant match. http://t.co/kRsZ9v4cIO #tennis http://t.co/dZSVLyIjqr— TennisTV (@TennisTV) 2014, 11月 15  何度も何度ももうだめかと思わせたフェデラーを最後に救ったのはネットプレーでした。最後のポイントが実に37回目のネットプレー。そのうち24回をポイントにつなげ、紙一重の勝負を制しました。  ストロークの調子が上がらず守りに入らざるを得なかったフェデラーに対し、バブリンカは最後まで攻め続け、最初のMPまでは間違いなく勝者にふさわしいプレーを披露していました。だからこそ勝たせてやりたかった…だが最後に攻め急ぎ冷静さを欠いたバブリンカに勝利の女神は微笑みませんでした。悔しい敗戦でしょう、だがこの悔しさを晴らすチャンスはすぐにやって来ます。バブリンカは一足先にデビスカップ決勝を戦う勝負の地、フランスのリールへ向かいます。悲願のデビスカップ優勝へ向けて、バブリンカの2014年はまだ終わりません。