試合開始わずか1時間半前のことでした。ラオニッチが記者会見を開くという知らせが入り、続いて棄権するとの情報が入ってきました。マレー戦で負傷してしまったラオニッチはギリギリまで出場の可能性を探ったものの結局出場を断念したのです。最終戦の決まりとして棄権者が出た場合には補欠選手が入る仕組みになっています。最終戦争いでは涙をのみながらロンドンには入って調整を続けていたフェレールに出番が回ってきたのです。  ラオニッチとフェレールでは全然プレースタイルが違います。錦織陣営が練ってきたであろう対策は全て無駄になってしまいました。この一戦に懸けるフェレールに対しきちんと対抗することができるのだろうか…。自分のような外野が心配しているうちにあっという間に試合時間になりました。両者が入場しアップを始めます、とりあえず手首の状態は問題なさそうで一安心。  試合が始まるととにかく錦織が攻勢をかける試合展開になりました。ミスもかなりありましたがそれでも主導権を握ろうと自分から攻めていきます。第4ゲームではフォアハンドのDTL⇒バックハンドのDTL2連発で3連続ウィナーを奪ってキープするなど攻撃を貫きます。第6ゲームではフェレールにBPを与えてしまいましたがここで絶妙なドロップショットを沈めてピンチをしのぎます。するとその攻撃姿勢が第7ゲームで実りました。錦織はネットに出るとフェレールがクロスに送ったボールに飛びついてボレーを決めます、ブレイクポイント。続いてフォアハンドの角度をつけたショットでフェレールの逆を付き見事ブレイクを奪いました。  しかしこのままではフェレールもダメだと思ったのでしょう。フェレールも攻撃性を上げて錦織に対抗してきました。錦織もミスでフェレールを助けてしまい即座にブレイクバックを許してしまい、4-5で第10ゲームに入りました。15-15から錦織が飛びついて返球したボールはフェレエールの横を抜いていきましたがアウト…の判定でしたが実はラインにかかっていました。だが錦織はチャレンジをしなかったのです。このプレーで15-30としてしまった錦織はさらにこのセットだけで4つ目のダブルフォルトを冒してしまい15-40、最後は錦織がスマッシュをネットにかけてしまいフェレールがブレイクして第1セット先取。錦織は自滅でみすみす相手にセットを渡してしまったのです、これ以上ない過ちでした。  切り替えが必要だった第2セット冒頭、フェレールのDFでまず0-15。ドロップショットでフェレールを前におびき出しクロスへのパッシングショット!0-30。フェレールのバックハンドがアウト、0-40!フェレールが攻めて2本凌ぎましたが最後はクロスにストレートにフェレールを振り回した錦織がポイントを奪って見事ブレイクに成功しました。悪い流れを自分で断ち切って見せたのです。  すると第2セットは錦織がデュースにすら持ち込ませない盤石のサービスゲームで見事突っ走ってくれました。過去2戦、いやこの試合の第1セットでも課題だったサーブが突然決まるようになりました。ファーストサーブ確率71%、ダブルフォルトも0と隙がなくどんどんキープを続けます。サーブで優位を築けるようになったことで無理して攻める必要もなくなり、フェレールの甘い返球から確実に攻撃していけるようになりました。落ちついてプレーを続ける錦織は無駄なミスも減り角度をつけたバックハンドでフェレールを走らせフォアハンドの強打と組合せて自在にラリーを操ります。バックハンドがどれだけ角度をつけていたかわかるデータがこちら。 Kei #Nishikori's set two backhand placement. Aggressive but safe... #FinalShowdown #tennis pic.twitter.com/ktABoOzCTL— TennisTV (@TennisTV) 2014, 11月 13  自分のプレーを取り戻した錦織が6-3で第2セットを取り返しました。錦織はバスルームブレイクを取って休憩し、最後の勝負に備えます。  錦織が史上最高勝率を誇る最終セットに入りました。立ち上がりのフェレールサーブでいきなりドロップショットを決めてポイント先行すると、続くポイントで放ったクロスへのランニングフォアがフェレールの足元、ライン上に突き刺さります!返せないフェレールはチャレンジに懸けましたが判定は覆りません。15-30からはロングラリーとなりましたが速いタイミングと深いショットで有利を築いたのは錦織でした、フェレールのショットはネットを越えず錦織に2つBP!ここでフェレールのバックハンドはアウトとなり一発で錦織がブレイクします。  錦織のプレーがフェレールの調子を狂わせていきます。無理に攻めてミスするシーンも目立つようになり、第3ゲーム0-15からダブルフォルトしたフェレールはボールガールがボールを渡そうとした目の前でラケットを叩きつけます、明らかにフラストレーションが溜まっていました。15-30から錦織がラインの内側から自由自在にストロークを繰り出し最後はフォアハンドでクロスへウィナー。最後は深いショットの連続でフェレールをベースラインに釘付けにしてからのバックハンドのショートクロス!組み立てもショットの精度も完璧すぎます、素晴らしいブレイクでした。  錦織は2つのブレイクで一気に4-1とリードを奪いました。しかしフェレールもこのままでは終われません。錦織5個目のDFに乗じてフェレールが一気に攻め込んで15-40と2つのBP。錦織はスマッシュを決めるなどして追いつきましたが再びDFを犯すなどこのゲームだけで計5つのブレイクポイントを与えてしまったのです。大ピンチの連続でしたが… Video: sensational volley! Kei #Nishikori channels his inner-Edberg to save a break point. #tennis http://t.co/qvxfeguKct— TennisTV (@TennisTV) 2014, 11月 13  4度目のブレイクポイントで錦織が見せたこのボレーが素晴らしかった。フェレールのパッシングショットがクロスに来ると読んでいたのでしょう、見事に沈めてみせました。最後は今日本当に好調だったドロップショットがまたしても決まって錦織を救いました、錦織キープで5-1。最後のゲームは30-30から錦織が素晴らしい角度のショートクロスでMPを握ると最後はライン際への深いショットを連発してフェレールを根負けさせました。錦織勝利!!!  素晴らしい試合でした。手首の影響は感じさせませんでしたし、つまらないミスもかなり少なくなりました。角度をつけたバックハンドも相手の深いショットに対するライジングもしっかり決まりました。特に最終セットは攻撃性と安定感が両立していましたし、要所要所で冷静なプレーも光りました。準決勝はジョコビッチというこの上なく厳しい相手が予想されますが、今日の第3セットのようなプレーでジョコビッチに全力でぶつかってほしいと思います。過去2戦と比べるとサーブが戻ってきたのも大きいです、やはりテニスはサーブが安定してこそ闘えるスポーツだと思います。 ————————  だが錦織の勝ちあがりはこの時点ではまだ決定していませんでした。フェデラーがマレーに対して1セット取った時点で錦織の勝ちあがりが決まる状態でフェデラー対マレーの試合は始まったのですが…  マレーは立ち上がりのフェデラーサーブでいきなり0-30とチャンスを作ります。だがマレーの見せ場はここで終わってしまいました。35本続いたロングラリーでマレーは徹底的にフェデラーのバックハンドを攻めましたがフェデラーに全て跳ね返されてしまったのです。  結局最初のゲームをフェデラーがキープするとここからマレーにとって地獄のような1時間が始まりました。マレーのストロークはことごとくミスとなり、逆にフェデラーは軽快なライジングでマレーのストロークををいなしながら、同時に素早い攻めを繰り出しポイントを奪い完全に試合の主導権を握りました。ネットプレーも18/23という素晴らしい確率で決まっていきます。マレーが緩いラリーでミス待ちをするとフォアハンドの回りこみが炸裂します。フェデラーは14連続ポイントでマレーを圧倒し5-0とリードを奪い、さらに最後のゲームでもマレーからブレイクを奪って6-0で第1セットを先取。第1セットのフェデラーのUE(凡ミス)はわずか3本でした。  第2セットに入るとフェデラーもやや失速、第2セットのファーストサーブ確率27%というものすごい不調に苦しみます。しかしそれでもマレーがブレイクポイントを迎えることが一度もなく、逆にどんどんフェデラーにポイントが加わっていきます。マレーのストロークが全く精細を欠くようになってしまったのです、これではフェデラーに対抗できるはずもありません。マレーは第2セット最初のサービスゲームでもフェデラーにセカンドサーブを思い切り叩かれてブレイクされ0-2。マレーのプレーはもう痛々しいレベルにまで落ちてしまいました、正直見ているのが辛かったです。  フェデラーの9連続ゲーム奪取でマレー2度目のサービスゲーム。マレーはなんとか40-30、そしてデュースでアドバンテージとチャンスを作りますがあと1本が取れません。チャンスを逃したマレーはまたしてもサービスゲームを破られてしまいました。フェデラーが続くゲームをあっさりキープして5-0…あと1つでダブルベーグル…  第6ゲームもフェデラーがあっさり2ポイント連取して0-30、そしてネットに詰めてフォアハンドボレー、トドメを刺したかに見えましたがなんとこれがアウト。続くポイントではセカンドサーブを強打しようと待ち構えたフェデラーの逆をついたサーブが決まってエース。さらに2ポイント連取したマレーは12ゲーム目にして初めてゲームを奪ったのです。しかし反撃はここまで。フェデラーが6-0、6-1でマレーを圧倒して準決勝進出を決めました。  そして同時に錦織も2位で準決勝進出です!おめでとう錦織!  できたら決勝でフェデラーにリベンジする錦織が見たいです。