錦織がチリッチに勝機を見いだせず、ポイントを失っていくのを見て自分は6年前の全米決勝を思い出しました。当時18歳の錦織がフェレールを破って4回戦まで進出したあの全米、当時21歳のマレーが初めて決勝に進出し、1位から陥落したばかりのフェデラーと対決しました。しかし結果は完敗。その後マレーはBIG4の一角にまで登りつめながら、グランドスラムタイトルの獲得に非常に苦しむことになるのです…  負けるときの原因というのは総じて一つではありません、色々あるでしょう。今回はプレビュー記事で書いた悪い予感ばかりが当たってしまった感じがありましたが、まずはチリッチの見事な戦いぶりに拍手を送りたいと思います。チリッチはフェデラー戦の素晴らしいチリッチそのままに錦織戦にも向かってきました。見事なファーストサーブ、重くて深いストローク、そして全く崩れないメンタル。中立の立場で見ていたフェデラー戦と違って敵として見てみるとよりその凄さを感じました。錦織がなんとかチャンスを作ってもそこから全く崩せない。そして錦織のピンチは確実に取りに来るし、錦織のボールが浅くなった瞬間に致命的な一打を叩き込んでくる。そして普通のストロークすら常に球が深い。  立ち上がりのチリッチサーブ、流石に両者に硬さが見える中いきなり錦織はブレイクポイントを握りました。しかしここはチリッチがしのいでキープ。以下両者あまりピリっとせずに4ゲームを終えて2-2になりました。しかし徐々にサーブをどんどん決めていくチリッチとストロークから攻められない錦織との差が明確になってきます。第5ゲームを2本のエースなどでラブゲームキープするチリッチ。ここは錦織にとっては我慢の時間帯、そしてそこをしのいでチャンスを待てたのが今までの錦織でした。しかし今日の錦織はチリッチの重いストロークを前に攻勢に出ることができず、逆にミスを繰り返して自滅してしまいます。第6ゲームでチリッチがブレイクを奪いました。しかし直後の第7ゲームはラリーが多い展開となり、錦織にとってチャンスとなりました。しかしここも微妙に打ち負けている錦織のショットが浅くなり逆にチリッチにウィナーを2本連続で決められてしまいます。このまま試合は進みチリッチが第1セットを先取しました。  錦織が重いストロークの返球に苦しむ、かつてデルポトロ戦のときによく見た光景でした。しかし最後にデルポトロと戦ってからもう2年も経っています。そしてこの全米ではパワーのあるバブリンカを倒した錦織。パワーに苦しむことになるとは、一応プレビューには書いたものの正直あまり思っていなかったのです。ですが今回は厳しかったようです。チリッチのストロークがただ重いだけでなく深かったことも一因かもしれません。できるだけ前で打ちたい錦織としては深い球はライジング気味に処理することも増えてきますので。  第2セットに入りました。錦織はダブルフォルトを犯した後ボールを叩きつけるように打ち返しました。フラストレーションが溜まっているのでしょう。しかしこのゲームはなんとかキープします。錦織がキープ一つに苦労するのに対してチリッチは次のゲームでエースを2本決めるなどしてあっさりとキープ。錦織のサービスゲームには当然プレッシャーがかかってきます。3本連続のアンフォースドエラーであっという間に0-40。ここから粘る錦織はドロップでウィナーを奪うなどしてデュースに持ち込みますが、やや甘いボールをチリッチに叩きこまれて再びピンチ、最後は錦織がバックハンドをネットにかけてしまいブレイクを許しました。  敗着に近い痛すぎるブレイクでした、ですが錦織もまだ諦めません。直後のゲームではフォアのウィナーとチリッチのミス2本で一気に15-40とブレイクバックのチャンスがやってきました。しかしチリッチが崩れてくれません、フォアの強打に対する錦織の返球は大きくアウト、そしてエースでデュース。ここをしのいだチリッチは第6ゲームではなんとエース4本でキープです。錦織は重圧をかけられるばかり、こらえきれず15-40からフォアハンドをネットにかけてしまいまたしてもチリッチがブレイク。そんな試合展開でも全米の観客達は試合開始から最後までずっと錦織を応援してくれました。錦織はそれに答えるかのように再び15-40とチャンスを作ります。デュースには持ち込まれましたがチリッチがラリーを中断してまで頼んだチャレンジが失敗。1つブレイクバックに成功しました。  この試合における両者の勢いの差を見せられたのが次のゲームだったかもしれません。30-30からチリッチが放った深めのロブに対し、錦織はスマッシュに失敗。迎えたブレイクポイントではロングラリーになりましたが錦織が中々攻勢に出れないでいると逆にチリッチが完璧なフォアハンドのウィナーをDTLに叩き込みました。チリッチ絶叫、2セットアップ。  第3セット。錦織も吹っ切れたかのか、パワーにようやく慣れてきたのか、徐々に良いプレーが出てきました。しかしそれをチリッチの好プレーが寸断し、錦織に流れを渡しません。第3ゲームでは30-15から絶妙なトップスピンロブでウィナーを奪って更に次のポイントで14本目のエースを叩きんだのです。こうなるとやはり錦織が耐え切れず、第4ゲームで錦織にミスが出てピンチを迎えるとバックハンドがサイドアウトしてブレイクを許してしまいました。錦織も第7ゲームでブレイクポイントを握りましたが17本目のエースでチリッチがしのいでみせます。最後はチリッチ得意のセカンドのキックサーブに対してリターンが浅くなったところをバックのDTLで叩きこまれした。チリッチがしっかりキープを続けて試合終了。チリッチはコートに倒れこんで喜びを表します。25歳の新王者誕生の瞬間でした。  初の決勝で何もできずにやられてしまった悔しさは言葉には表せないほどでしょう。ですが錦織にはまだ先があります。6年前砕け散ったマレーはそれから更に3度、計4度も決勝の舞台で阻まれ続けました、ウィンブルドンでは”getting closer”と言葉を絞り出したマレー、涙を浮かべるシーンもありました。それでも諦めずに5回目でタイトルを勝ち取ったのが一昨年の同じ全米でした。4年越しで夢を叶えたのです。  錦織にもまだまだ時間は残されています。今回ラオニッチ、バブリンカ、そしてジョコビッチを破ったテニスは間違いなく世界一を取れるテニスです。今回は届かなかった、頂点へ届く瞬間がきっと訪れると信じています。