今日の昼食をとっていたときのこと。 中年と思しき3人組の男性が隣の席に座っておられました。 A「最近の錦織はすげえよな」 B「今回の大会は優勝のチャンスなんでしょ?」 C「そうそう、今大会は世界ランク1~3位が出てないらしいからね」 A「お、よく知ってるね~。そうなんだよ、逆に言えば今回優勝できなきゃマズイよね」 B「行けるんじゃないですか~?」 C「いや、それでもマジすごいっすよ」 B「ところで週末の野球なんだけどさ~」 といったような会話が聞こえてきました。(実話) 内容のツッコミはさておき、普段からテニスなどまず見ないであろう層にも、この活躍は影響があるのだなと感慨深く思いました。 それほどまでに引きつける錦織圭という男の実力・魅力の素晴らしさ、そして同時にメディアの報道の影響の大きさも感じます。 メディアの皆様方には、お願いだからこの大会中はテニスに集中できる環境をつくる努力をして頂けたらと思います。 ひいてはそれが自社の利益にもつながることでしょうし、どうか正しい情報を伝え、この宝物のような才能をサポートしていってほしいものです。 と、前置きはここまでです、すいません。 素晴らしい内容と収穫を得た4回戦フェレールとの戦い。 まさにトップ選手というべき二週目のギアチェンジが行われ、いやが上にも期待が高まるところです。 準々決勝、ベスト8の相手は世界ランク4位、スタン・バブリンカ。 押しも押されぬ昨年行われた全豪オープンの優勝者です。 2013年のQFではジョコビッチとフルセットの死闘を繰り広げ、敗れはしたもののベストマッチとも名高い名勝負でした。 その翌年、つまり去年のQFでまたもジョコビッチと対戦。 これもフルセット、それも9-7という大激戦の末これに勝利。 グランドスラム過去18大会で、ジョコビッチがたった一度だけSFに進出できなかったのが、この敗戦によるものでした。 そのままSFのベルディフ、アクシデントはあったもののファイナルでナダルを破りグランドスラム初優勝を成し遂げました。 まさに王者にふさわしい、偉大な優勝だったと思います。 4月にはモンテカルロ・マスターズでもスイスの大先輩フェデラーを破り優勝。 今までATP250までしか優勝したことがないということが信じられないほどです。 才能はあるものの好不調の波が激しいことで結果を出しあぐねていたバブリンカでしたが、大きな飛躍の一年になりました。 その後はGS王者特有のプレッシャーなどにも悩まされ、全仏初戦敗退などもありましたが、ある程度の成績を残してはいました。 そして前年ベスト4まで勝ち進んだ全米オープンのQFで「ライジング・サン」錦織圭との対戦を迎えます。 錦織本人は忘れていたそうですが(本当に??)、2012年に2度対戦し、いずれもバブリンカが完勝。 「彼の弱点を見つけたよ」と言われたままの完敗。 錦織は片手バックハンドが苦手、とはよく言いますが、別にフェデラーやアルマグロ、ディミトロフを苦手としているわけではないと思います。 いいところなく敗れたイメージの強いガスケ、バブリンカ、それにハースといった選手との対戦でよく見られるのは、バックハンドの撃ち合いから素早くライジングでダウンザラインを取られるといったシーンです。 これは錦織がリズムを掴む前にタイミングを外されるという、高度なテクニックとパワーがあっての戦略なのでしょう。 事実、この試合も立ち上がりからバブリンカにペースを握らせてもらえませんでした。 ミスも多いが爆発的な威力を誇るバックハンドのウィナーを立て続けに叩き込まれ、またウィナー級のショットも長いリーチの前になかなか決めることができず、天才的なウィナーを見せ、そこからラリーの優位性を保つことの多い錦織は、この展開になかなかリズムを掴むことができません。 最初のサービスゲームを落とし、必死に食らいつくも、バックハンドの撃ち合いではやはりダウンザラインによるウィナーを量産されてしまいます。 やはり錦織はバブリンカ相手はやりにくいんだろうな、そんな印象を残したまま、1stセットはバブリンカが獲得しました。 その後は一進一退でしたが、ラオニッチと4Rで4時間半近い死闘を経て、疲労困憊な錦織。 それでも試合を諦めず、粘り強く我慢強くチャンスを窺い、セットカウント1-1で迎えた第3セットタイブレーク。 このセットはSFSを落とし、タイブレークでも先にSPを掴みながら逆王手をかけられるという非常に苦しい展開でした。 カウント6-7からのバブリンカのサービス、その6球目。 コート外に追い出されそうになりながら繰り出したバックハンドのダウンザラインは今思い出しても震えるほどです。 あの試合、あの状況でよくあそこに決めたと、鮮明に覚えています。 私にとっての錦織ベストショットランキング1位は、あのショットです。 ファイナルセットに入ってもバブリンカ優勢だった試合でしたが、それでも踏ん張って食らいつく姿は感動的でもありました。 それどころか、ファイナルセットではなんとバブリンカよりもストロークのスピードを上回るという恐るべきデータも。 「急にMPがきたので」 とは彼らしい感覚ですが、この大きな大きな紙一重の勝利がSFでの勝利、ひいてはその後の飛躍に直結していると言っていいでしょう。 あれから半年、さらに進化した姿をバブリンカに見せることができるでしょうか。 一方のバブリンカはこの敗戦により軽いスランプに陥ってしまいました。 前述の通りもともと成績は安定していない選手でしたが、トップシードで迎えた楽天オープンでは伊藤竜馬相手にまさかの初戦敗退。 地元バーゼルでも初戦でククシュキンに敗れ、パリでは3回戦でアンダーソンに敗れてしまいました。 確変終了とも言われる中ではありましたが、シーズン最終盤のツアーファイナル、そしてデビスカップファイナルで見事に復活。 ツアーファイナルSFのフェデラー戦では一週間後にデ杯決勝をともに戦うチームメイトのフェデラーとまさかの大死闘。 勝ったフェデラーは試合中の怪我により決勝のジョコビッチ戦を戦うことができなくなってしまいました。 RRで良いところなく錦織を完封したフェデラーをそんな状態にまで追い込む、さらには試合中にフェデラー夫人のミルカさんと喧嘩してしまうほどの闘争心は、やはりグランドスラム王者ならではのものなのだと思いました。 そしてそのフェデラーと仲直りし、デビスカップ決勝はまさに2人で優勝。 年初の開幕戦、チェンナイでは圧倒的な存在感でこれを昨年に続く連覇。 全豪オープン連覇に向けて視界良し、ここまでの4試合も危なげなく勝ってきたと言っていいでしょう。(GGRは頑張りましたが) 今一番調子が良い、充実している選手と言っても良いほど、この全豪へ向けて仕上げてきました。 そして迎える相手は因縁の相手、錦織圭。 グランドスラム優勝のポイントは2000pです。 もしQFで敗れるようなことがあればマイナス1640p、バブリンカは実に10位まで順位を落とすことが確定します。 連覇へ向けて、トッププレーヤーとして君臨するためにも、この試合はバブリンカにとって絶対に負けることのできない試合でしょう。 錦織にとってもトップ4以上を目指す上ではこの試合こそが試金石。 ここまで好調のバブリンカを倒すということは、つま全豪王者の資質を有していることの具体的な証明にもなります。 勝てばランキングはバブリンカを抜くことが確定、ジョコビッチあるいはラオニッチという倒すべき相手とのSFでの対戦を実現するためにも、絶対に勝ちたい一戦でしょう。 世界の頂を目指す上で、今の自分を計れる、そして扉を突き破る大きな大きなチャンスがやってきました。 プレッシャーはどちらかと言えばバブリンカの方が大きいと思います。 バブリンカは明日の試合のことを「自分の調子が良ければ勝てるはず」と言っていたそうですが、おそらくは前回の対戦から大きく戦い方を変えてくることはないと思います。 錦織につきあわず、ベースライン後方から強打を叩き込み、チャンスがあれば積極的にダウンザラインを狙っていく戦法を採用するはずです。 失うもののない錦織としてはいかにミスを誘発させるか、焦らせるか、コートの中へ入っていけるか、挑戦していけるか。 お互いのアイデンティティを賭けた、大事な大事な一戦となりましょう。 勝敗の予想は実に難しく、本当に分かりません。 大手ブックメーカーでも掛け率はほぼ同じ。 バブリンカの圧勝も、錦織の圧勝も、全米のような死闘も、どれもが可能性としてはありそうです。 まずはサービスキープに集中して、この大一番を良い状態で迎えてくれたらと思います。 でも、まだまだ夢を見たい。 楽しみですね、ドキドキしますね。 明日は12時以降の試合、それぞれに工夫を凝らしてこの大一番を応援しましょう!