男女の準々決勝2試合ずつが行われ、男子シングルスでは第3シードのラファエル・ナダル(スペイン)が、第7シードのトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)に敗れる波乱があった。  ナダルは、これまでのベルディヒとの対戦成績が18勝3敗。2007年から17連勝しており、その間にセットを3度しか落としてこなかった。だが、ベルディヒは強烈なサーブを武器に持つオールラウンドプレーヤーで、5シーズンの長きにわたってトップ10を維持してきた実力者だ。しかも、このオフには09年からのコーチを変えて決意も新たに臨んできた。  第1セットの第4ゲームを早々にブレークされ、嫌な流れになった。第5ゲームにすぐブレークポイントを2本掴みながら、ここをイージーミスで逃し、第8ゲームに再び15-40からブレークを許した。ナダルはティム・スマイチェク(アメリカ)との2回戦でも2セットを落としたが、やはりベルディヒは格が違う。最高時速216㎞、平均196㎞のファーストサーブを軸に速い展開で攻めこんだ。第1セットの4本までの少ないラリーからのポイントは、ベルディヒが60%の割合で獲得している。ナダルの反省はその辺にあった。 「きょうはリズムもつかめず、厳しく攻めることができず、相手にスペースを奪われて短い勝負になってしまった。相手に楽にプレーさせたのでは、グランドスラムの準々決勝で勝つことはできない」  ベルディヒは、ベースラインからのポイント率58%でナダルを上回ってセットを奪い、自信を深めただろう。第2セットはそのまま一気に6-0。ナダルが1ゲームも奪えなかった試合は珍しく、2011年のツアーファイナルのロジャー・フェデラー(スイス)戦以来なかったことだ。第3セットになってようやく本来の姿を垣間見せて粘ったが、立ち上がりの2セットがナダルの現実だろう。昨年の全仏オープンで腰を痛め、ウィンブルドン以降に手首を痛め、秋には盲腸の手術を受け……ここまで7カ月でプレーしたのは8試合だけ。トップ10との対戦に到っては、全仏決勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)以来だった。大会前はこう話していた。 「何試合か勝ってリズムをつかめば、少しは自信も出てくるかもしれない。しかし、大会前に、自分が優勝候補の一人だなんていうウソはとても言えない」  これまで数々の故障に苦しんできただけに、完全復帰までにどれほどの時間が必要なのかも分かっている。2007年以降、この大会に7度出場しすべてベスト8以上に勝ち進んできた。今年もその〈ノルマ〉を果たし、ひとまず安心している面もあるだろうが、故障の間にも下剋上は続いている。ツアーの厳しさを物語る試合だった。  もう一試合では、この大会で3度準優勝のアンディ・マレー(イギリス)が地元の19歳ニック・キリオスをストレートで下している。また、女子は第2シードのマリア・シャラポワ(ロシア)が台頭著しいユージェニー・ブシャール(カナダ)にストレート勝ちしたが、第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)は強打の左利き、エカテリーナ・マカロワ(ロシア)に敗れた。  大会第10日は男女の準々決勝の残りが行われる。スタン・バブリンカ(スイス)との試合を控えた錦織圭はこの日、時に笑いを浮かべながら余裕の練習で汗を流した。これまで7敗して勝ちのなかったナダル、まだ対戦のないキリオスが敗れたことで、残った選手のなかに錦織が勝っていない選手はいなくなった。 文:武田薫