オフシリーズ・閑話球題 ②ATPツアー、ランキングの仕組みその2
それでは今日は後半戦です。ランキングの仕組み、2015年シーズンで注意したほうがいいことを書きます。
まずランキングにはエントリーランキングとレースランキングの2種類があります。
エントリーランキングはメディアや一般的に報道されたり言ったりする時の「世界ランキング」で、最新の発表日から52週間以内に行われた大会の成績をポイント化し、並べたものです。この算出方法については後で詳しくやりましょう。
エントリーランキングの名前通り、大会の6週間前に選手たちは大会にエントリーを表明します。
この時このランキングで上位から順にDA(ダイレクトアセプタンス)し、本選のメンバーが確定し、その後予選のエントリーが行われます。
またドローが決まる日のランキング(=大会の前の週のランキング)はシード付けに使われます。注意したいのはエントリー地点での序列がシード順になるわけではないということです。
一方レースランキングは錦織圭のファイナル争いで、幸か不幸かもうほとんどの方が知っていると思います。
1年の最初から加算した方法でのランキングです。
「1年の最初」と表現をごまかしました。正確にはツアーファイナルズ後の週からの積算ポイントになるのですが、トップ選手はチャレンジャーに回っていることはふつうあり得ないので、1月のツアー新シーズンからの積算ポイントと考えてもらってOKです。ですから実は現在の2015年レースランキング1位は110pで先週のチャレンジャーファイナルで優勝したシュワルツマンです。まあ来年の第1週で優勝した選手が暫定1位になり、全豪で優勝した人がさらに暫定1位になってレースランキングが始まるので、取るに足らないことです。
レースランキングはよくすべての大会の合算だと思われている方がいますが、これもエントリーランキングと同じようにポイントを加算するルールがあるので、シーズン途中から純増とはいかなくなります。
それではエントリーランキングの加算方法について説明しましょう。
前回のその1でツアーにはグレードが5つあることを確認しました(1つはツアーファイナルズ)。
そのうち、ファイナルはいったん後回しにしましょう。それ以外の大会で、最大18大会を加算します。
18大会の加算方法は
①グランドスラムは自動エントリーの場合、予選通過の場合どちらでも結果を自動加算
②マスターズは自動エントリーの場合、予選通過の場合どちらでも結果を自動加算
③ATP500、ATP250、チャレンジャーなどは①②で埋まった分を除き、ポイントが多いほうからカウントする
となっています。しかし、いくつかのルールがあります。
まず、グランドスラムは前回上位104人が自動エントリーになっていると書きました。
この104人は上位から順と機械的に決まっており、先ほど書いたエントリー表明は必要ない代わりに、強制的に一旦組み込まれてしまいます。
したがって明らかにけがで出れないことが確定している場合でも、いったんエントリーしてから欠場を発表するという手続きを踏むことになるので、ペナルティが発生します。
つまり、ランキングが足りているのに出場できなかった場合、0ポイントが加算されます。
そしてその0ポイントは「自動エントリーの場合」加算ですので、来年まで消すことができません。
これがテニス選手が無理を押してでも大会に出ようとする理由です。今年は錦織が全仏に強行出場しました。結果それによって10pを獲得しています。出ていなかったら0pだったわけです。
同様のことはマスターズにも言えます。ドローサイズが違うので自動DAになる選手の数は違いますが、とにかくいったんエントリー確定になると、いかなる理由でも出場できなかったら0pです。そしてこれは強制加算なので、来年まで消えません。
そしてもう一つ大事なことが。グランドスラムとマスターズはこの0pルールが適用されますが、モンテカルロは出場しなくてもペナルティ扱いにならず、実質1000pが入るATP500という扱いになっています。
これは前の記事で読者のまめのきさんからも質問がありました。やはり3~5月はこのマスターズ/グランドスラムが続き忙しくなるということでATPがモンテカルロのマスターズ降格を09年から行おうとしたようなのですが、100年以上続く伝統の大会を格下げすることに反対が続出。結果今のようなマスターズとATP500の中間の扱いになっているようです。詳しくはこちらを読んでください。
さて各グレードのポイント配分です。
優勝 準優勝 4強 8強 16強
GS 2000 1200 720 360 180
MS 1000 600 360 180 90
500 500 300 180 90 45
250 250 150 90 45 20
GSは出場で10p、初戦勝つと45p、次に勝つ(32強)と90pとなります。一回勝つと倍になっていく方式というイメージですね。予選通過の場合25pが別ボーナスで入ります。
MSは96ドローの場合出場で10p、初戦勝つと25p、次勝つと32強で45p、以下上の表に続きます。
48/56ドローの場合出場で10p、初戦勝つと45p、以下上の表に続きます。
なおシードがbye(初戦なし)になっていて、1つ上のラウンドから始まる場合、初戦で負けたらGS/MSでは10pになります。
ATP500、ATP250の場合初戦敗退は0pなので、0pになります。
さてここからは実際に計算してみましょう。習うより慣れろです。
まずはアメリカのビッグサーバー、現在19位のジョン・イズナーの表です。リンクから公式に飛べます。
これを見るといろんなことが分かりますね。
まずグランドスラム+マスターズ(モンテカルロ除く)の12大会がしっかり加算されてますね。
ポイントはイズナーはモンテカルロに出場していないことです。他の大会なら罰則0pですが、ついていません。
そしてこれらが強制加算されているので、45pのウィンストン=セーラムが追い出されています。
つまりトップ選手はグランドスラム+マスターズの12大会をしっかり戦いながら、合間に250や500に出て稼ぐという感じなんですね。
今日の豆知識です。
トップ選手のランキングは4(GS)-8(MS)-6(そのほか)方式で加算されている!
さて次は期待の若手、「Young Guns」を錦織とともに引っ張っていく11位、グリゴール・ディミトロフの表です。
注目したいのは500、250の部分です。5つしかないじゃないか、おいtwosetdown嘘を教えるなというところです。
しかし落ち着きましょう。ポイントはモンテカルロです。
モンテカルロはグレード的にはマスターズ1000なのですが、この90pは「そのほかの6大会」として加算されているのです。
つまり「そのほかの6大会」で、アカプルコ500→クイーンズ250→ブカレスト250→ストックホルム150→バーゼル90→モンテカルロ90の順に加算されたということです。
さあ、お待たせしました。これで錦織圭のポイントが計算できるはずです。どうぞ!
さてここで初登場のファイナルのポイントですが、ファイナルは18大会の外にある19大会目のボーナスポイントですので勝手に400pを足してOKです。
それにしても0p…夏ののう胞の手術でカナダ・シンシナティを欠場、ナダル戦の代償でローマを欠場しています。
あと全仏もそのあおりを受けているので、もっと加点できたはずです。
いかにケガなくツアーを過ごすかが来シーズンのカギだということがはっきりわかりますね。それができればおのずと上が見えてきます。
ランキングの計算が分かったところで今後はランキングの予測や計算を皆さんが知っているものとしてやっていこうと思います。
が、一つだけ大きな問題があります。前回予告していた2015年特有の問題点です。
実は2015年はツアーカレンダーが大幅に見直され、大会の開催時期が移動しています。
私は先ほど書きました。ランキングポイントは52週間残ると。
その結果先ほど書いた「4-8-6」システムが通用しなくなる時があります!!
具体的に見ていきましょう。
まず、第1週は2014年は12月28日の週でしたが、2015年は1月5日の週になります。
したがって1年をweek1~week52までとして、2015年week1を1月5~11日としましょう。
すると昨年の第1週に相当するブリスベン/チェンナイ/ドーハは前年のweek52に相当しますので、シーズンが始まる前にこれらのポイントが失効することになります。
さらに具体的にみると
2014年シーズン
week52 ブリスベン/チェンナイ/ドーハ
week1 シドニー/オークランド
week2 全豪
week3 全豪
week4 デ杯1R
week5 ヴィナデルマール/モンペリエ/ザグレブ
week6 ロッテルダム/ブエノスアイレス/メンフィス
week7 リオデジャネイロ/マルセイユ/デルレイビーチ
week8 ドバイ/アカプルコ/サンパウロ
week9 インディアンウェルズ
week10 インディアンウェルズ
week11 マイアミ
week12 マイアミ
week13 デ杯QF
week14 ヒューストン/カサブランカ
week15 モンテカルロ
week16 バルセロナ/ブカレスト
week17 ミュンヘン/オエイラ
week18 マドリード
week19 ローマ
2015年シーズン
week1 ブリスベン/チェンナイ/ドーハ
week2 シドニー/オークランド
week3 全豪
week4 全豪
week5 キト/モンペリエ/ザグレブ
week6 ロッテルダム/サンパウロ/メンフィス
week7 リオデジャネイロ/マルセイユ/デルレイビーチ
week8 ドバイ/アカプルコ/ブエノスアイレス
week9 デ杯1R
week10 インディアンウェルズ
week11 インディアンウェルズ
week12 マイアミ
week13 マイアミ
week14 ヒューストン/カサブランカ
week15 モンテカルロ
week16 バルセロナ/ブカレスト
week17 ミュンヘン/オエイラ/イスタンブール
week18 マドリード
week19 ローマ
具体的にはデ杯1Rがずれたことで、week5~8までは帳尻が合うものの、week9で1週ずれます。
全豪とインディアンウェルズ、マイアミは2週開催なので、間の週はランキングが更新されないので大きな問題はないのですが、問題はマスターズが1週開催になる後半戦です。
マドリード/ローマはデ杯QFの開催がずれたので帳尻があっているのですが、問題はそのあとです。
今シーズン、芝シーズンが2週から3週に拡張されました。
その影響でウィンブルドンから1週間遅れます。そのため、2014年ではweek31でカナダ、week32でシンシナティマスターズが開催されていたのですが、来年はweek32でカナダ、week33でシンシナティが開催されます。
つまり、来年のweek31(キッツビュッヘル/ワシントン)が終わった後2014カナダのポイントはなくなり、マスターズで加算される義務大会は「7」になります。
week32が終わるとカナダのポイントが入りますが、今度はシンシナティがなくなるのでまた「7」になります。
week33が終わってようやくシンシナティ2015のポイントが入り、ようやく4-8-6システムに戻ります。
同様の議論は上海(week40→41)、パリ(week43→44)でも起こります。
というか4-8-6システムについてはいいのですが、要するに同名の大会がほとんど1週後にずれるので、同じ大会に常連として出ている選手のポイントが1週間ガクッと落ちて翌週に戻るというような現象が発生します。
たとえば2014年week39の東京で優勝した錦織ですが、来年のweek39はクアラルンプール/深玔です。
つまり来年仮にweek40の東京で連覇したとしてもweek39終了の地点でいったん500pを失います。
要するに、ランキングの計算、来年すごいめんどくさい!!
というわけで私のほうも4-8-6システムを活用したランキング試算フォーマットから切り替えないといけないのです。そんな時間あるのか…
今年はATP公式と同じように自動で計算してくれるシステムが作れたらと思います。今は4-8-6のところにそれぞれ数字を埋め込む方式にしています。こんな感じです(訳あって画像はだいぶ前のやつ)。
そういえば一時的ですがその他大会を7つカウントする時期があるので、250、500の結果も上位勢とはいえ侮れない今シーズンだということです。各選手がどんな選択をしてくるか楽しみです。
次回からは年間のツアー紹介です。それでは。たぶん質問の嵐だと思うのでお待ちしております。