不意に招かれた終焉、世界中に与えた衝撃と確信 【ATPファイナルズ2014 SF 錦織圭vsジョコビッチ 回顧】
眠れない。
ATPツアーファイナルズ2014・準決勝。
錦織圭vsノバク・ジョコビッチ。
テレビ朝日で急遽生中継が組まれ、もはや日本中がこの試合を楽しみに、また固唾を呑んで見守っていたことと思います。
2人の対戦成績は2勝2敗、今年は1勝1敗、まさに決着戦。
今大会絶好調のジョコビッチに対し、フェレール戦で復調の兆しを見せた錦織がどのような戦いを見せるのかに注目が集まりました。
立ち上がりは今大会の「ハイパー・ジョコ」そのもの。
錦織が放つウィナー級のショットを次々にコートに返球します。
そのボールが深いところまで、バウンド高く入ってくると、錦織が続けざまにこれをエラー。
ウィナーを取りながら試合のリズムをつくっていく錦織は試合の流れに乗れず、ミスを重ねて行きます。
さらにジョコビッチの正確無比なサービスの前に完全にお手上げ状態。
ジョコビッチのサービスポイントは1st2nd合わせて16/18。
錦織が取れたポイントはたったの2、それもウィナーが1ポイント、ジョコビッチのエラーがひとつ、完敗でした。
2ndセットに入っても最初のゲームをブレークされる最悪のスタート。
やはり今大会のジョコビッチは違う次元の選手だと、世界中で観ていた誰もが感じていたことでしょう。
しかしこのあたりから開き直りか、また徐々にジョコビッチの戦術に対応してきたのか、我慢のテニスで勝負を諦めない錦織。
第2ゲームで訪れたブレークチャンスを1度で決めると、そこからは徐々にフェレール戦で見せたような、まさに「錦織ゾーン」とも言うべきテニスが帰ってきます。
ストロークで優位に立ち、ジョコビッチからウィナーを量産。
またやや確率重視にしていたサービスから強めのサービスが入るようになってきました。
確率こそ1stセットより劣りますが、試合を見ていてもサービスゲームの安定感が段違いでした。
良い1stサーブが入ってくると、ストローク戦にもリズムが生まれてきます。
1stセットで叩きつぶしたはずの錦織のメンタルは完全に復活。
これにはあれだけ圧倒していたはずのジョコビッチも動揺を誘われ、目に見えてサービスゲームの質を落とす状態に。
4-3で迎えたジョコビッチのサービスゲームを、これも1度のチャンスでブレーク成功。
こうなった錦織は止められません。
ジョコビッチは全米でも味わったようなコートを広く使い、スピーディにコート内に侵入するテニスに対応できず、次々にウィナーをたたき込まれていきます。
今期のフルセットの成績が21勝2敗(うち1敗はナダル戦の棄権)と、数字でも証明される、錦織が圧倒的な自信を持つファイナルセットへ勝負の行方は持ち込まれました。
ファイナルセットでも完全にギアのかかった錦織はラリーを支配。
ジョコビッチのサービスゲームから始まった1stゲームも15-40とリードし、ダブルのブレークポイントを握ります。
このとき、錦織圭は何を考えていたのか-
「いける、このままブレークすれば勝てるぞ!」
「絶対このポイントを取る、全米での4thセットのようにここでとどめを刺すんだ!」
私は錦織圭ではありませんから本音は分かりません、しかし見ていた方もいわば「歴史を動かすポイント」の予感はかなりあったと思います。
しかし-。
このゲームのジョコビッチのサーブは明らかに異常をきたしていました。
1stは全く入らず、明らかに2ndセットの内容に心を揺さぶられていたことは間違いないでしょう。
それでも、この2本の2ndサーブは錦織のエラーで取り切ることが出来ませんでした。
デュースになってもジョコビッチがどうと言うよりも、先に錦織がミスをしてしまいます。
結果、ジョコビッチが15-40からの4連続ポイントでこのゲームをキープ。
テニスとは、またスポーツとはメンタルによって多分にそのプレーに影響を及ぼします。
上がったはずのギア。
ここまで一度で決めてきたチャンスを生かせなかった。
「なぜ?」
「あのときなぜ?」
こうした僅かな、自身への疑念が、慎重に上げていったはずの自信に影響を与えてしまいます。
そこからの錦織は完全な独り相撲。
良いウィナーを決めたかと思えば、繋ぎのストローク、そしてチャンスでもエラーを連発。
ギアを上げきったようなところで起きたこのトラブルで、最終的にはパニック状態に陥ってしまいました。
勝ちが見えた、勝負を急いでしまった-
2度目のブレークを許すと、そこからはさすがのジョコビッチも復活。
劣勢の中でも必死にボールを返球し、あの手この手で錦織のミスを誘い、自信に疑念を抱かせたジョコビッチもまた見事です。
結果論になってしまいますが、こうした大きな大会での極限状況の経験、またその引き出しの差が勝敗を分けた最大のポイントと言えましょう。
勝利を決めたジョコビッチ。
その表情はどこか憮然としていたもので、見ていた私たちとどこか同じような、どうも釈然としないような雰囲気が窺えました。
恒例となっている勝利者へのカメラレンズへのサインも、
「●」
これだけ。
何かを書こうとしてやめたのか、または健闘を讃えた日の丸か、あるいは苦しかったこの試合を終えたピリオドのサインか。
試合後のインタビューを要約すると
・錦織とのこの試合は僕にとって今年一番とも言えるものになった
・彼はファイナルのデビューでもあったのに、次々にすごいプレーを見せた
・今1番良い状態でシーズンを送っている彼は、現役選手の中で一番早いタイミングでプレーをする
・彼が思い通りにプレーできている時、相手選手はほとんどプレーが出来ない
・そんな中ではあったが、3セット目の大事な場面でダブルフォールトがあったのが痛かっただろうし、たすけられた
・勝つことが出来て本当に嬉しい
というもの。
対する錦織も
・3セット目は相手が世界No.1だと意識しすぎた。
・このままじゃ勝てないと思って自分のテニスを変えてしまったのが敗因、無理をしなくてもチャンスは生まれたと思う。
・ジョコビッチ、フェデラー、ナダルの3選手はまだ上にいる。この選手たちに勝てるようにもっと意識してやりたい。
と振り返ります。
少しの狂いが大きな渦となって試合全体に影響を及ぼす、本当に大変なスポーツです。
本日眠い目をこすりながら観戦し、途中で完全に目が覚めて、最終的には呆然とした思いをしたであろう多くの皆さん、特に普段あまりテニスの試合を見ない方にも、まるでジェットコースターのようだったこの試合、プロテニスの魅力と難しさが伝わったことと思います。
本当に惜しかった、と言っていいでしょう。
あえてのタラレバですが、やっぱりあのゲームを取ってたら勝ってた可能性は高かったと思いますよ、だからこんなに悔しいんだと思います。
でも、負けた相手は世界ランク1位のジョコビッチ、2位のフェデラーなんです。
それなのにこんなにも悔しい、勝てたかも知れない、それもツアーファイナルという舞台で、ということが錦織圭のすごさなんです。
こんなにも大変なプロテニスツアーで、その最高峰に挑戦している男の姿に、いつも感動をさせてもらっています。
テニス見るなら、絶対に今が最高ですよと、声を大きくして言いたいと思います。
今シーズン全体はまたそのうち振り返るとして、今日はもう本当に悔しい、でもここまで諦めずにやれた、頑張った、その充実感に浸っています。
今日の試合で得た手応えはもはや確信に、そして課題は、またしても一回り錦織圭を成長させる糧となることでしょう。
まずは本当に今シーズンの全日程終了、お疲れ様でした。
夢も、希望も、感動も、全部全部ありがとうございました。
ゆっくり、ゆっくり、どうぞ休んで下さい。
ありがとうございました。
おやすみなさい。