ツアーファイナル マレーとの激突へ
テニスツアーの一年の締めくくりを飾る、年間上位8名によるツアーファイナルが、いよいよ日本時間の今夜11時に錦織Vsマレー戦で開幕します。
今年の総決算としての大会で、緒戦の相手が苦手としていたマレー。
今の力がどこまで上がっているかを測る、格好の相手と言えます。その意味でも非常に楽しみです。
「ベストなプレーができれば、勝てない相手はいないと思うんで、チャンスはあると思っています。」
と錦織が語っているように、最大の関心事は彼の体調がどうか?ということに尽きると思います。
ツアー最終戦のパリでは、「自力で勝っていかないといけない」重圧から、表情もプレーぶりも重かった錦織。
特に準決勝で見た錦織の姿は、まるで戦える状態にはなく、それまでの3戦連続ファイナルセットの激闘による疲労でサーブをまともに打つこともできない状態でした。
しかし、ここロンドンにはそうしたプレッシャーはありません。
あの全米での快進撃は、3週間の治療休養で得られた体の芯からの疲労回復と、「試合に出られるかもわからなかった」くらい先が見えなかった状態での無欲な精神状態が原動力だったと思います。
もちろん、それまでの鍛錬と練習の積み重ねがあってこそであることは事実ですが、彼の持ち味はなんといっても自由な発想からくるクリエイティブなテニス。
試合ができる、良いボールを打てる、良いプレーができるという喜びがプレーの幅を広げ、持ち味が発揮されたのではないかと想像します。
そうした彼本来の伸びやかなテニスが今回も展開されれば・・と願ってやみません。
それには、一にも二にも、彼の体調が万全であることが絶対条件、ということです。
攻めの錦織、守りのマレーの図式は、これまでの対戦同様、今回も展開されることでしょう。
これまでとの違いは、両者の状況です。
錦織は今年大きく変貌を遂げました。
マイアミでのトップ10選手の連続撃破、休養明けのバルセロナ500(クレー)での優勝、続くマドリード1000では決勝でナダルを追い詰めました。
そして全米でのNO.5・3・1シードを連破しての決勝進出、記憶に新しいアジアシリーズでの2週連続優勝(250・500)などなど、もっとも躍進した選手と言えるでしょう。(賞こそアグーに譲りましたが)
一方のマレーは、昨年秋に行った腰の手術からの復帰でスタートした一年でした。
中盤までは、試合内容が良くなったかと思えばあっさりと負ける試合もあったりで、なかなか完全復活までには至りませんでした。しかし、ここ2カ月の間に三度の優勝を遂げるなど、ツアーファイナル圏外から一気に駆け上がってきました。
さすがにサーブだけが以前ほどの威力に戻りきっていない印象ですが、ツアー屈指の驚異的な守備力は、あのマレーです。
連戦に次ぐ連戦をあれだけの運動量でこなしていたにも関わらず、パリ最終戦で残り枠争いをトップで通過。驚きとともに「さすが」というほかありません。
さて、試合内容としては、やはり錦織がマレーを振り回す展開で始まるでしょう。
つなぎのショットが多いマレー。ボールに怖さはさほどありませんが、甘めの攻め球には恐怖のカウンターが待っています。これこそが彼の大きな特徴。
「本当にこれを拾う気か? あそこからアレを打つ(打てる)か?」ということが何度あったか。
ほかの選手なら一発で決まるショットも、二度三度と返されるでしょう。いったいどこまで守るのか、いったいどんなボールなら決まるのか・・
錦織はそんなジレンマを抱えながらのプレーとなるでしょう。
大会前の錦織の談話に、「楽しみたい」というコメントがありました。
カギはここにあるように思います。
勝ちたい気持ちが強い状態で、「これで決めたい」というボールが拾われたらショックです。焦ります。ここがマレー戦での大きな壁。
彼の守備力を打ち破ろうとする攻撃は、よりライン際を狙って次第にミスを増やしていくという、結果的に自分を追い詰めることに。
しかし、楽しむ余裕があれば、そんな焦りも強く感じることなくプレーできるはず。
勝つために相手の体力を奪うことは場合によっては必要であり、失セットを気にしていてはいけません。
とにかくラウンドロビン全勝すれば、セットカウントは無関係に準決勝進出するわけで、そのためにも、彼にはプレーそのものを楽しむ余裕が必要でしょう。
あの全米の時のように。
直近のコメントにあるように、トップ3も2も、もうその視野には入っています。
ツアー中、主要大会に主眼を置いて適度なインターバルを空けながら参戦していけば、おのずと結果はついてくるのではと考えます。
そして、無風でフラットなコート面でビッグサーバー有利のインドアハードよりもむしろ、気温や風など天候に左右されやすい四大大会は、錦織にとってはチャンス拡大の局面。
ツアーファイナルに関しては、「一年頑張れば、こんな良い思いができるんだ」とわかっただけで今年は十分でしょう。笑
あまり目先のことにとらわれず、大魚(四大大会)を釣り上げるためには、しっかりと射止めそれをキチンと網に取り込める準備を、したたかに整えてほしい。
ツアーファイナルは、その準備の一環ととらえるくらいでいいと、個人的には思います。
こちらが無理だと思うことを次々と裏切って喜ばせてくれた、今年一年の錦織。
ならば「さすがにツアーファイナル全勝優勝は無理だろう」とでも言っておきましょうか。</span>