上海ロレックス・マスターズのベスト4の激闘が行われました。第1シードのナダル対する第4シードのチリッチ。第2シードのフェデラー対する第3シードのA・ズベレフに勝利して勝ち上がってきた第16シードのデルポトロです。今季の主要大会ベスト4の顔触れをみてみます。数値はシードです。 初めて第1、第2シードが勝ち上がりました。4選手ともベスト4に相応しい顔ぶれです。 ここでマスターズ大会におけるビッグ4の2013年度以降の優勝回数計を見てみます。 2014年度にジョコビッチが4回の優勝を果たしナダルとフェデラーに迫り、2015年度に6回の優勝でフェデラーをかわし、2016年度に4回の優勝を果たし遂に30回優勝とトップに躍り出ました、しかし、ナダルが今季2度の優勝で30回と再び肩を並べました。ツアー1勝することさえ困難なところMS優勝をここまで積み上げるビッグ4は偉大です。デルポトロは全米でGS1勝をあげているもののMS勝利はなくMS初制覇を果たしたいところでしょう。 マスターズ大会はハードコート6大会、クレーコート3大会で開催されますが、サーフェイスの速さにより各選手にとって相性があるようです。2016年度のものですがサーフェイスの速度指数であるCort Pace Indexを見てみます。 IW     :30.0 マイアミ   :33.1 モンテカルロ :23.7 マドリード  :22.5 ローマ    :24*.0 トロント   :35.2 シンシナティ :35.1 上海     :44.1 パリ     :39.1 数値が大きいほど速くなります。当然にクレーコートが遅く、ハードコートではIWが最も遅く、最も速いコートが今大会の上海となっています。 ナダルとチリッチ戦です。ナダルが7ー5、7ー6のストレートで勝利しました。両者の対戦成績はナダルの4勝1敗でナダルが4連勝しています。ポイントの内訳をみます。ウイナー数+相手のFE数+相手のUE数です。( )はサービスポイント(手集計)です。 <第1セット> ナダル :12(2)+15(8)+21=48 チリッチ:14(5)+16(5)+10=40 <第2セット> ナダル :11(2)+13(9)+19=43 チリッチ:17(9)+ 7(4)+ 9=33 ナダルはミスが少なく、チリッチがペースを握るには得意とするサービスやフォアハンドで攻撃的な展開に持ち込む必要があります。チリッチはフォアハンドの精度を上げる時間帯はあるものの試合を通じて継続できません。リスクをとったショットなどによりミスがでます。ポイント内訳をみるとUE数の差で勝敗を分けています。 フェデラーとデルポトロ戦です。3ー6、6ー3、6ー3でフェデラーが勝利しました。デルポトロはQFトロイツキ戦で転倒し左手首を痛めて出場さえ心配されましたが、バックハンドは両手打ちをしていましたので影響はなかったものと思われます。 対戦成績はフェデラーの16勝6敗ですが今季全米ではデルポトロが7ー5、3ー6、7ー6、6ー4で勝利しています。この両雄の闘いも因縁めいたものを感じます。毎回白熱した闘いが繰り広げられます。ポイント内訳を見みます。 <第1セット> フェデラー:10(0)+ 8(2)+ 9=27 デルポトロ:12(8)+10(7)+ 8=30 <第2セット> フェデラー:14(6)+12(6)+14=40 デルポトロ:11(5)+13(4)+ 4=28 <第3セット> フェデラー:11(4)+10(4)+ 6=27 デルポトロ: 6(1)+ 8(8)+ 9=23 第1セットのデルポトロは素晴らしいテニスを展開しました。サービスポイントはエース8を含む15、フォアハンドの精度は高くミスも少なく完璧といっていいほどの内容でした。デルポトロのテニスはバックハンドは時折DTLウイナーを放つことはありますが、手首の怪我の影響かスライスが多いようです。基本的にクロスに繋ぎます。極力深くコントロールしようとしていますが、ミス誘発というよりかは得意なフォアハンドを放つ機会を伺います。クロスのラリーから回り込みフォアハンドを叩き込みます。このフォアハンドは威力抜群なのですが強打しているイメージではありません。よってミスが少なくプレイスメント力もあります。また、198cmと大柄ではあるのですがコートカバーリング力もあり打点へスルスルと移動し、隙あらばフォアハンドを放たれ、相手としては油断できない状態が続き、デルポトロの必殺フォアハンドを放たれる以前に攻撃を仕掛けることが要求されるようです。フェデラーは先に先に攻撃を仕掛けようとしますがミスもでます。前半戦ほどの精度はないようです。第1セットの内容をみるかぎり、このままデルポトロの優勢は続くものと思われました。全米と同様にフェデラーはこのままデルポトロの前に沈んでしまうのかと脳裏をよぎりました。しかし、フェデラーには諦めという文字はなく勝利に向けたシナリオを坦々と描いているように感じました。 第1セットのフェデラーはサービスの精度がよくなく、サービスポイントはデルポトロが15に対してフェデラーは2とサービス力に大きな差がでていました。勝利への鍵はサービスでした。1stでした。第2セットの1st確率は78%で1stポイント獲得率は94%、失ったのは1ポイントのみでした。フェデラーの強さは一見速い攻撃力にあるように思えますが、試合の流れを読み取り、的確な戦略を引き出し実践するところにあると思います。第2セット以降はリターンはデルポトロのバックハンド側に浅く低く集めました。バックハンド側へと球を集めますが、危険と思われるフォアハンド側へも適当に振りました。第6ゲーム、デルポトロのサービスゲーム、冷静で温厚にみえるデルポトロが熱くなり主審に言い立てる場面がありました。観客のマナーについてコントロールしろとの苦言であったようです。これがマインドに少なからず影響を与えたようでブレイクを奪われます。このセットはフェデラーが奪りワンセットオールとします。しかし、デルポトロがこのように熱くなる姿を見たのは記憶にありません。この一戦にこの大会にテニスにかける強い意志の表れではないかと感じました。 第3セットに入るとデルポトロの精度は更に落ちました。サービスポイント以外のFEを奪うことが出来ず、サービスエースもなし、ウイナーは5でした。フェデラーが2つのブレイクを奪い勝利しました。全米では宿命の対決を阻止したデルポトロでしたが、今回は実現させてしまいました。 これでデルポトロはレースランキングで1,885とし錦織と並びました。5月以降は大会に出場し続けています。怪我に悩まされ続け29歳となったデルポトロですがトップ10の実力があることは誰もが認めるところだと思います。ファンに愛されるキャラ、その存在がツアーを盛り上げてくれます。今後、怪我がなく飛躍することを願います。 さて、決勝は期待通りの宿命の対決となりました。 対戦成績はナダルの23勝14敗。今季は3回対戦して全てフェデラーが勝利しています。全豪ではフルセットに持ち込む接戦を演じましたが、IWとマイアミではフェデラーがストレート勝利をしています。ナダルは全米以降16連勝とハードコートに適応し最も波に乗っていますが、サーフェイスは前述したように速くフェデラーに有利に思えます。レースランキングでは2,360ポイント差です。フェデラーがNO1返り咲きを考えたとき、敗はその可能性を限りなく消滅させるでしょう。 ナダルの戦略としてはミスを最小限に抑えてフェデラーにリスクを取らせ、流れの中でウイナーを叩き込むこと。フェデラーとしては1stを入れ速い攻撃的なテニスを展開すること、ナダルの逆襲も想定されるものの左右に振ることでしょうか。フェデラーは想定外の戦略で臨むことがあります。全豪で見せた超攻撃的なライジングアタック、ズベレフ戦で見せたスライスとドロップショットを織り交ぜた展開等です。フェデラーは今のナダルが今季3度の対戦とは異なる状態であることは認識できていると思います。繰り返しになりますが、この一戦の敗は今季NO1を消去してしまうことを意味します。同時にキャリアにおいてNO1返り咲きの可能性も限りなく消滅するものと思います。フェデラーの想いが戦略として表現されるものと期待します。フェデラーがナダルを宿命のライバルとリスペクトしている理由は戦績だけではなく、ナダルのテニスに向かう姿勢と一球入魂にあるのではないかと思います。そしてまた、ナダルはこの一戦に間違いなく全力で集中してきます。フェデラーもまた勝利に向けて研ぎ澄まされた集中力をもって臨んでくると思います。だからこそ宿命の対決は続くのです。この一戦は今季2強の大一番になると思います。