あけましておめでとうございます。 昨年は当ブログを沢山の方に閲覧していただき、誠にありがとうございました! 今年も、皆さんに面白がっていただける記事を書けるように、精進して参りたいと思います! もう、2016シーズンも始まっており、我らが錦織選手は、残念ながらベスト8で地元のトミック選手に敗退してしまいました… 錦織選手が参加した今回のブリスベンは、ベスト8がフェデラー選手以外、全て20代、しかも前半の選手が多く、なんと錦織選手がフェデラー選手に次いで2番目の「高齢者」(失礼しました。チリッチ選手の方がやや上でした!お詫びして訂正します)という、若手の活躍が目立った大会になっています! 高齢化が進んだ男子テニス界に、ついに世代交代の大波がやってくるのか? そんな予感を感じさせてくれますね~ とはいえ、まだまだ前哨戦。 真価が問われるのは、次の全豪オープンでしょう。錦織選手も調子自体は悪くなさそうですので、この悔しさをバネに、勝ち進んでほしいと思います! さて、今回は、テニスのスタッツについて、少し考察してみたいと思います。当初このネタは、オフシーズンにやる予定だったのですが、年末がバタバタしてしまい、ずれ込んでしまいました… 最近はやりのビッグデータというやつは、スポーツの世界にも浸透してきており、種目によっては、非常に詳細なデータを分析し、ファンもそれを楽しむことが常態化しております。 代表的なのは、野球のセイバーメトリクスでしょう。バレーボールなんかでも、試合中にデータを収集し、それをもとに作戦を展開するのが、当たり前になっているようです。 そういったデータを駆使するスポーツに比べて、ATPのホームページで公開されているスタッツはいまだに古典的で、何か物足りないと感じている方も少なくないのでは、と勝手に推測しています。 かく言う私もその一人で、テニスのスタッツは断片的で、何か、この指標を見れば、選手の特徴が明らかになる、といった面白いものがないものか、とつらつら考えておりました。 まぁ、テニスは個人競技ですので、ある意味、ランキングがそのまま最大の「強さの指標」ですから、それ以上のものは必要ないといえば、それまでです… また、野球のように年俸の査定にデータが必要になるといったこともありません。 ATPが本腰を入れないのは、そういったインセンティブが働かないからなのでしょう。 さて、ここからが本題です。 ATPのホームページで見られる個人のスタッツから、次のような指標を計算してみました。 指標① ハラハラ指数 ブレークポイントを相手に与えた数(BP faced)÷サービスゲーム数(sv games) で計算します。 つまり、1ゲーム当たり、平均何回のピンチが訪れたか、という指標です。 応援する側からすると、ハラハラする頻度となりますので、ハラハラ指数と命名します。 当然、値が少ない方が優秀な数字となります。 2015のトップ8と、ビッグサーバー代表として、イズナー、カルロビッチ両選手に登場していただきました。 データは下記の通りです。 ついでにブレークポイントを逃れた割合(BP saved)ものせておきます。 表をビジーにするのは不本意なのですが、合わせて見ると面白いので、あえてこのような形で提示いたします。 まず、ビッグサーバーの二人の指数が、0.2台と突出しているのは想定内ですが、フェデラー選手がイズナー選手とほぼ同等という値には驚きました。いかに、サービスゲームの組み立てがうまいか、ということがよくわかります。 この3人からブレークポイントを奪うチャンスはほぼ1セットに1回程度ということでしょう。 そんなフェデラー選手から、ファイナルで3セット中12回のブレークポイントを握った錦織選手はさすがです。 2番手にジョコビッチ選手が入るのも、納得の数字です。 この中で、最も意外だったのは、Top8のなかで、錦織選手のハラハラ指数が3番目に低かったことです。この数字を見れば、2015の錦織選手の良かった点として、サービスゲームの安定感を挙げることに躊躇はなくなります。シーズン当初の課題として挙げられていたサービスゲームの安定化は、かなりの程度達成できていたと言ってよいと思います。 もしかしたら、2015はビッグサーバーとの対戦が多かったのが影響しているかもしれませんが、それを差し引いても素晴らしい数字であることは間違いありません。 そして、この8人の中で、0.5を超えているのは、フェレール選手のみです。ほかの7人はさすが、といったところでしょうか。 続きまして、 指数② ワクワク指数 ブレークポイントを得た数(BP opp.)÷リターンゲーム数(ret games) で計算します。 つまり、1ゲームあたりどれだけチャンスを作れたかという指標です。 応援する側から見ると、ワクワクする頻度となりますので、ワクワク指数と命名します。 当然、値が高いほど優秀な数字となります。 データは下記の通りで、ブレークの成功率(BP conv.)も併記します。 ビッグサーバー二人の数字と比べると、Top8のレベルの高さがよくわかります。 カルロビッチ選手がブレークチャンスを得るのは、1セットに1回程度といったところでしょうか。 先ほどの数字と合わせて、ハラハラもワクワクもセットに1回ずつという、ある意味面白くない試合とも言えます。 その中でも、ジョコビッチ選手がさすがの1位です。5ゲームに4回近くブレークポイントを握るというとんでもない数字です!圧倒的なディフェンス力を表す数字と言えましょう。 続いて、フェレール選手はほぼ4ゲームに3回ブレークポイントを握れる計算になります。リターナーの名にふさわしい素晴らしい数字です。彼は、ハラハラもワクワクも多い、ある意味最もエキサイティングな選手といえますね。 リターン力を高く評価されている錦織選手ですが、チャンスは3ゲームに2回程度。それでもフェデラー選手とほぼ同等と優秀な数字ですが、もう少し伸ばせそうな気もします… そして、何より気になるのは、ブレークの成功率が40%と、この中でワウリンカ選手に次いで低いことです。リターナーとしてはやはり物足りない数字です。 このあたりに、錦織選手が2015爆発できなかった理由があるかもしれません。 本人も、チャンスを生かし切れずもやもやしたと言っていましたし、しばしば0-40からブレークできなかった場面も見た記憶があります。 今季の最大の課題は、チャンスを生かし切る力にあるかもしれません。 これだけでも、そこそこ面白いデータになりましたが、この記事の「肝」はここからです。 指標③ 安定度 ワクワク指数÷ハラハラ指数 で計算します。 つまり、チャンス率÷ピンチ率で、総合的な安定度を表す指標にならないか、というのが私の仮説です。 この数字が高いほど、総合的な安定度が高いと評価します。 今度は、2015のTop30すべて並べてみましょう。 こうしてみると、それぞれの選手の特徴が表れてなかなか面白い表になりました。 Top10はさすがの安定度ですが、その中で突出して低いのがワウリンカ選手です。 彼の強さの本質は、GSにおける驚異の勝負強さですから、この数字はご愛嬌でしょう。 意外なのは、ベルディヒ選手。2015格下相手に驚異の安定度を示した選手にしては物足りない数字ですが、対Top10であまりにも分が悪かったのが響いているかもしれません。ちなみに彼の2014は1.73と極めて高い数字です。 そして、この数字が2を超えているのは、ジョコビッチ選手とフェデラー選手のみです。 フェデラー選手に至っては、チャンスの数がピンチの数の2.6倍と、とんでもない数字です!いったいどれだけ強いんだ? 実はこの数字、他にもいろいろ計算しているのですが、2を超えるのは、いわゆる「特別な」シーズンのみです。 レジェンドプレーヤーで言っても、サンプラス選手は1997年の1回のみ(統計は1991からですが、それ以前は恐らくないでしょう)で、 アガシ選手が1995と2002の2回です。 ジョコビッチ選手が2011、2013~2015(2012は1.94でおしくも5年連続ならず)。 フェデラー選手は、なんと2004~2007、2011、2012、2014、2015の8シーズン!彼はキャリアでも1.86と抜群の安定度を誇ります。 ナダル選手は2008と2010のみです。 こう見ると、ジョコビッチ選手とフェデラー選手の安定度が群を抜いていることがわかります。 そして、最も驚いたのが、錦織選手の3位という位置です! ナダル選手、マレー選手をおさえての1.69は実に見事な成績です。 錦織選手は、2015にハイレベルなオールラウンダーとして化けようとしていたのかもしれません… 目指す方向はまさにそれでしょうから、あとはもう一歩の勝負強さを身につければ、更なる飛躍が期待できるでしょう。 全体を見渡してみると、この数字が1.5を超えれば非常に安定していたと評価できるでしょう。 2015で1.5を超えているのは、フェデラー、ジョコビッチ、錦織、ナダル、マレー、ツォンガ、フェレールの7人だけです。 ちょっと面白いのは、この中でピンチ>チャンスとなっている(安定度が1を切っている)3人が、17~19位と並んでいるところです。 特にペール選手の低さは突出しています。この数字でよく20位以内にいるなと思える数字ですが、この人の特徴も、「意外性」でしょうから、ある意味納得できます(笑)。が、単に前半と後半の成績が乖離しているだけで、今季の数字は一気によくなるかもしれません。 21位以下は、カルロビッチ選手を除いて、ほぼ1.1前後で横並びしています。勝率もほぼ5割強の選手たちです。 30位以内というTop選手に入れるか否かの差は、ちょっとした違いの中にあるのでしょう。 これ以下の選手はおそらく似たり寄ったりでしょうから、この指標はあくまでTop選手の分析にしか使えないかもしれません… 11位以下の選手の中で、注目に値するのは、ティエム選手の1.45という数字です。これはTop10にも匹敵する数字で、錦織2014の1.46と遜色ありません。 2016は大化けする可能性を秘めていると思います。 ここまでのデータを見て、いかがでしたでしょうか? 簡単な計算でできる分析ですから、すでにどこかでやられているかもしれませんし、偉そうに手柄面するほどの分析ではないですが、私的には、かなりおもしろかったです。 しかし、テニスでは、平均的なスタッツにあまり深い意味がないかもしれません… TSDさんが以前に書いておられたように、わずかなポイント差が勝利に直結するゲームですから、統計的には、勝利は「ゆらぎ」の中にこそあるのかもしれません。 Top選手の場合、「誰と」やって、どれだけの成績を上げているか、が真に問われるのでしょう。 ただ、今回出したような安定度をもとに、選手ごとに重みをつけてポイントを分析するといった、よりビッグデータ的な分析をすれば、さらに面白い数字を発掘できる可能性はあると思います。 なにはともあれ、すでに始まってしまった2016年。今年も大いにテニス観戦を楽しみたいと思います!