年間グランドスラムに2勝と迫っていたセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が、世界ランク43位でノーシードのロベルタ・ビンチに敗れる番狂わせがあった。これで女子決勝はビンチと、第1試合でシモナ・ハレプ(ルーマニア)を倒したフラビア・ペンネッタによるイタリア対決となった。グランドスラムでのイタリア勢による決勝は男女を通じて初めて。男子準決勝ではノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ロジャー・フェデラー(スイス)が勝ち進み、最終日に行われる男子決勝は第1シード、第2シードの激突となった。フェデラーの全米オープン決勝進出は6年ぶり。  セレナは、昨年のこの大会から、今年の全豪、全仏、ウィンブルドンとグランドスラム4大会連続で優勝し、この大会に、同じ年の4大大会をすべて制覇する「年間グランドスラム」がかかっていた。1988年にシュテフィ・グラフが達成して以来、27年ぶり史上4人目の大記録――第1試合ではペンネッタが勝っていたため、残るは2人のイタリア選手だったが、よもやビンチに敗れると考えたファンは、多くはなかっただろう。  ここまで4度対戦し、すべてセレナのストレート勝ち。しかも、グランドスラムの準決勝進出がセレナの29度(25勝3敗)に対し、ビンチは初めてという実績の差も大きかった。ここまでの試合でアンフォーストエラーが多かったセレナだけに、注目された立ち上がり、やはり硬さがあった。第1セット、第3ゲームのサービスゲーム、40-15から追いつかれ、4度のデュースの末に先にブレークを許した。そこから一気に5ゲーム連取、逆転で第1セットを奪い自信を取り戻したかに見えたのだが……。 「記録はまったく意識していない、プレッシャーはない」と言い続けて来たセレナだが、実際の胸の内は、そこからの試合展開に明らかだった。一気に勝負を決めるのではというスタンドの期待を裏切る第2セットの立ち上がりだ。  第1ゲーム、ダブルフォルト絡みで0-40と追い込まれ、ここはサーブ力で何とかかわしたものの、2-2で迎えた第5ゲーム、再び0-40とされるとここはブレークを許し、バタバタと落ち着きを失ってセットを落としてしまった。  163㎝、60㎏、32歳のビンチに決定力はない。ただ、シングルスではおよそ10年間トップ100を維持してきた経験、同じイタリアのサラ・エラーニと組んだダブルスでは生涯グランドスラムを達成している技巧派だ。サーブを食い止められ、守りに入ってラリー戦に持ち込まれると厄介になる。「ボールを返すことだけを考えていた」というビンチに、セレナの空回りが始まった。第1セットでは8本だけだったアンフォーストエラーが、第2セットには13、ファイナルセットには19と増えており、ビンチにすれば、打ち返すだけでポイントが入ってくる流れになった。  ファイナルセット、先に第2ゲームをブレークしたセレナだったが、第3ゲームをダブルフォルトで落とし、大きな山場は3-3で迎えた第7ゲーム、セレナのサービスゲームだ。連続ダブルフォルトでデュースに入ると、この日最速の時速203㎞のエース。ところが、次のポイントが激しい打ち合いになり、右に左に走り回ったビンチが絶妙のボレーを決めた。セレナは動揺を隠せず、凡ミスを2本続けてブレークを許すと、第2セット同様にそこからは挽回できず逃げ切られた。 「初めての準決勝、しかもセレナに……信じられない。人生最高の日です」ビンチは興奮して話しながらも、こう付け加えた。「ごめんなさいね」  セレナにとっても、地元アメリカのファンにとっても楽しみにしていた、歴史的記録を消したことを詫びたわけだが、その言葉を発するだけの気持ちの余裕は残っていた。一方のセレナは、記者会見に現れると珍しく落胆を隠さなかった。 「がっかりしているかどうかは、答えたくないので、別の質問を」 「プレッシャーは何もないって、ずっと言ってきました」  メジャー4大会連続優勝は既に2度達成している。カレンダー上の記録にどれほどの意味があるかどうか疑問だが、間もなく34歳。これから再びチャンスが訪れるかどうか何の保証もないだけに、ショックは隠せなかった。 文:武田薫