大会第9日目を迎えたこの日、男女シングルス準々決勝が2試合ずつ行われ、女子は第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)とノーシードのロベルタ・ビンチ(イタリア)、男子はやはり第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)と昨年の優勝者で第9シードのマリン・チリッチ(クロアチア)がベスト4に名乗りを挙げた。  姉妹対決はこれが27度目。通算成績は妹セレナの15勝11敗で、最近の7戦はセレナの6勝1敗だった。直近の対戦は今年のウィンブルドン4回戦でセレナが勝ったが、この1勝は重要な意味を持っていた。  セレナは昨年の全米オープンから、グランドスラム連続優勝を4に伸ばしているが、今年に入ってからの全仏、ウィンブルドンでは苦しい戦いが続いた。全仏では7試合の内の5試合がフルセット、その内の4試合が第1セットを落としてからの逆転勝ち。続くウィンブルドンの3回戦では、世界ランク59位の地元選手にファイナルセット、2ブレークダウンまで追い詰められた。しかし、その次のビーナスとの対戦を境に立ち直り、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、マリア・シャラポワ(ロシア)、決勝ではガルビネ・ムグルッサ(スペイン)を倒している。  この大会でもここまでミスが目立ち、武器であるサーブの迫力も鈍い。年間グランドスラムという快挙まであと3勝と迫ったところで、姉ビーナスとの対戦になった。  ウイリアムズ姉妹はアメリカ西海岸、ロサンゼルス近郊のコンプトンで育った。ラッパーの町として知られ、ギャングの抗争の絶えない危険な地域だ。姉妹は毎日、パブリックのコートに通って練習したが、姉ビーナスは決して妹のそばを離れなかったという。1997年、17歳のビーナスが全米オープンに初出場していきなり決勝まで駒を進めたとき、パワーテニスに驚くマスコミに「私の妹は誰よりもすごいボールを打つ」と話したものだ。  ビーナスは今回の姉妹対決に関し「姉だろうが妹だろうが、しっかり準備して集中する点では同じ」と話し、セレナの記録に関しては「誰でも歴史を見たい気持ちに変わりはない。でも、選手はどんな状況でも勝つことに集中する」と話していた。  23位までランキングの下がった姉としては、姉妹関係を忘れて思い切り打ち合うことが妹のためになり、自分に負けるくらいなら記録には届かないという思いもあっただろう。一方の妹にとっては、知り尽くした相手ととことん打ち合うことは、迷いを振り払うきっかけにもなる。  今大会、立ち上がりに不安のあったセレナだが、この日は力強さを見せた。第1セット、ウィナーが15本、アンフォーストエラーは僅かに2本。2、3回戦の第1セットではアンフォーストエラーがそれぞれ26本と14本もあり、続く4回戦はそれを警戒してエラーは3本に減ったものの、安全策からウィナーも7本まで落ちていた。ビーナスを前にして、本来の攻撃的な姿勢で試合に入ることができたということだろう。  常に生活を共にしている姉妹対決はやり難いに違いないが、勝負に徹することで本当の力が引き出せる、姉ビーナスのそんなメッセージが伝わる試合だった。セレナの次の対戦相手ビンチとは過去4戦して4勝。大記録に大きく前進させた試合だった。 文:武田薫