まずは、ゴフィン戦を簡単に振り返ります。 ゴフィンの個人的な印象なのですが、「ショットメーカー・安定感がある・リターンがいい・ネットプレーも出来る・足が速い・サーブが少し弱い」という感じです。 ですから、非常に錦織と似ているタイプだと思います。ただし、ストロークの決定力に関しては錦織の方がかなり上、というのが過去2試合の印象です。 この試合でも、その部分が結果として表れたと思います。 スタッツを振り返ると 錦織のウィナーが30本(サーブ10本、FH14本、BH4本、その他2本) ゴフィンのウィナーが13本(サーブ6本、FH6本、BH1本)。 ご覧のようにウィナーでかなりの差が付いています。しかも、UEの数は24対21とほぼ同数ですから、いかに錦織の攻撃力がゴフィンを上回っていたかが分かると思います。 スコアは6-4、6-4と2セットとも1ブレーク差で僅差の勝利のように見えるかもしれませんが、内容的には錦織の完勝でした。ゴフィンが悪いプレーをしたという感じではないのにこの勝利。錦織、強いです。 一方のゴフィンですが、これからランキングを上げていくためにはやはりストロークの決定力が必要になると思います。パワーが無いから決定力が無いというこれまでの常識は、錦織の活躍で完全に打ち壊されました。パワーが無いなら展開を速めればいい、それが決定力に繋がる訳ですからゴフィンにはその方向を目指して頑張ってほしいです。 では、ここからはナダル戦へ向けてのプレビューです。かなり長くなると思うので、要注意。 分かりやすくなるように、WOWOW風に「攻撃力・守備力・戦術・スタミナ・メンタル」で両者を比較したいと思います。 ①攻撃力「錦織7:ナダル3」 ワシントン5試合とモントリオール2試合の錦織を振り返ると、フォアで打つ回数を意識的に増やしているように思います。これは今季前半戦の反省を生かした取り組みだと思います。ワシントンの最初の頃はその精度が低かったのですが、試合を重ねるにつれてかなり精度も上がってきましたし、それによりボールの勢いも増してきているように見えます。 元々、バックはトップクラスな訳ですからフォアを強化することで左右どちらからでも攻撃を仕掛けられるようになりました。それが、ゴフィン戦のウィナー数にも如実に表れていると思います。 フォアの強化は、それ以外にも好材料をもたらしていて、「1stサーブからの組み立てが楽になった」ことと「バックのダウンザラインを多く打てるようになった」ことです。 まず1つ目ですが、実際にスタッツを見れば分かると思います。ワシントンでは5試合を通して1stサーブからのポイント獲得率が83%、モントリオールではこれまでの2試合で85%です。錦織の2015年のハードコート通算では76%ですから、いかにこの数字が上昇しているかが分かると思います。もちろん、相手がジョコビッチやマレーのようにリターンの良い選手になれば、この数字は多少下がるでしょうけどそれでもこの数字は立派だと思います。 ちなみにですが、2015年1stサーブからのポイント獲得率(ハードコートのみ)が一番高いのはカルロビッチなのですが、その確率が85%。言うまでもなく、今の錦織の1stサーブからの組み立てが優秀な証明ですよね。 次に2つ目ですが、これはバックのダウンザラインのウィナーが増えたというよりも、そのショットが起点になっての攻撃が増えたということです。バックのダウンザラインを攻撃の起点にするには、いくつかの重要な要素があると思います。 1つ目はダウンザラインの精度と威力。いくら起点にするためのショットとはいえ、甘いショットになれば全く意味はありません。 2つ目はフットワークです。ダウンザラインに仕掛けると、大抵の場合は相手がクロスに返してきます。クロスコートに打ったボールはワイドに流れていきますから、当然フットワークが良くないと追いつかず逆にカウンターの餌食になってしまいます。 3つ目はフォアの決定力。先ほども言ったように、バックのダウンザラインには大抵の相手はクロスにボールを返球してきます。と言うことは、次のショットはフォアで打つことになります。ここで、もし攻撃を仕掛けなければ先ほど打ったバックのダウンザラインは無意味になるため、フォアでの連続攻撃が必要になります。 今季前半の錦織は3つ目のフォアの決定力に不安があったため、あまりバックのダウンザラインを起点にした攻撃が出来なかったように思います。ですが、そこを改善したことによりこの問題点は解消されたと思います。 一方のナダルですが、調子が戻ってきたとはいえまだまだミスも出ますし良い頃のナダルには戻り切ってはいません。はっきり言って、攻撃力では錦織には全くかなわないと思います。 ということで、本当は攻撃力に関しては8:2とか9:1にしようかとも思ったのですが、ナダルが多少サーブが良くなってきている印象を受けたので7:3にしました。 ②守備力「錦織5:ナダル5」 正直、これは分からないです。というのも、ナダルがどれくらい錦織の高速攻撃テニスに対応できるのかが未知数なのです。 確かに、ナダルはハンブルクから連勝が続いてるので調子が戻るとともに守備力も向上しているとは思うのですが、ハンブルク・モントリオールの対戦相手と錦織を比べると攻撃力は桁違いに錦織が上です。 さらに、14年前半に行われた錦織とナダルの直近2試合を振り返ると、ナダルが守り切れずに錦織が自由に攻める場面がかなりありました。14年前半と今の錦織を比べると、今の方が自信もついている分攻撃力はあると思います。ですから、ひょっとしたらナダルの守備が全く機能しないということも考えられます。 一方錦織はワシントンからの連戦ということもあって、今大会はあまり守備で無理をしていない印象ですが、ここからは一気に相手のレベルも高くなるためライン際のボールもしっかり処理をしてくると思います。 ということで、ナダルへのリスペクトも含めて5:5にしました。 ③戦術「錦織8:ナダル2」 ここは一番錦織が優位に立っているポイントです。錦織は本当にあらゆるショットを巧みに操り、色んなポイントの取り方を持っています。この試合も、ネットプレーやドロップショットからのロブなど色んな方法でナダルを揺さぶっていくと思います。 一方のナダルは、時折サーブ&ボレーを見せたりしますが基本的にはベースライン後方からのストロークが主体です。逆に、サーブ&ボレーなど変化を加えてきた時というのは、それだけストローク戦で苦しいことの表れになると思います。 ④スタミナ「錦織3:ナダル7」 これに関してはワシントンからの連戦になっている錦織がかなり不利です。ナダルとしては当然そこを狙ってロングラリーに持ち込みたいところだと思います。 一方の錦織は、攻撃力を生かした速い展開でなるべく省エネで試合を進めて、いかに重要なポイントの時にスタミナを温存しておくかが鍵になってきそうです。 ⑤メンタル「錦織5:ナダル5」 個人的にはこのメンタル面がこの試合で一番重要になると思っています。 もし、この試合がシード順的にナダルが上で調子が今のままと仮定するならば、メンタル的には錦織の方が有利だと思います。 確かに過去の対戦成績は0-7ですが、直近のマドリードのイメージが両者に少なからずあるでしょうし、錦織も挑戦者の気持ちだけを持って挑めばいいため、メンタル面もプレッシャーは少ないはずです。 しかし、実際は錦織の方がランキングも上ですし、そう簡単に挑戦者の気持ちを持ってプレーできる状況ではないと思います。一方のナダルは、ランキングも下で挑戦的にプレーでき、さらに対戦成績でも圧倒している。もし、負けたとしても今の状態なら仕方ないと世間的には見られますし、勝てば復調してきたと見られる。ポジティブ要素満載なわけです。 錦織は本当に難しいメンタル面での戦いを強いられると思います。しかし、今の錦織ならしっかりこの状況にも対応できると思います。 対策としては、メンタルの状態をはっきりさせるのが一番だと思います。 どういうことかと言うと ランキングを忘れて過去の実績・対戦成績を考慮して挑戦者の気持ちで挑む or 今のランキング通り自分の方が実力も上と考えて、しっかり受けて立つ このどちらかをはっきりさせて試合に入ることが大事だということです。ここで勘違いしてほしくないのが、受けて立つといっても守備的になるということではなくて、これまで通りのテニスをするということです。 一体どのようなメンタル状態でこの試合に両者が臨むのか、非常に興味深いです。 さて、長くなりましたのでこれまでの5項目をまとめると 攻撃力「錦織7:ナダル3」 守備力「錦織5:ナダル5」 戦術「錦織8:ナダル2」 スタミナ「錦織3:ナダル7」 メンタル「錦織5:ナダル5」 となります。 テニスの質だけを考えるなら、錦織がナダルを上回っています。しかし、テニスは心技体の総合力が問われるスポーツ。技の錦織、体のナダル、勝負を分けるのは心と私は考えます。 では、最後に勝敗予想。 錦織のストレート勝ち、スコアは7-5、6-3です。 結構思い切った予想だと自分でも思いますし、希望も込めての予想にはなっています。 しかし、錦織の目標「打倒ジョコビッチ、グランドスラム制覇」とここ最近の状態を考えると、決して無謀な予想ではないとも思っています。 むしろ、目標のためには今のナダルくらいにはストレートで勝たないと難しいのも事実です。 何とかスコア予想まではいかなくても、勝敗予想は是非とも当たってほしいです!