去年の決勝と同じ組み合わせになったジョコビッチ対フェデラー。 ジョコビッチは4度目、フェデラーは10度目となる決勝の舞台だ。 ジョコビッチは、4回戦あわやという場面があった他は、ストレート勝ちを収めている。 一方、フェデラーも、失ったセットは1つのみ、準決勝のマレー戦は隙のない盤石の強さを見せている。 相手にサービスのブレイクポイントを与えた数はなんと4度のみ、実際にサービスブレイクされたのは1度だけだ。 ランキング1位と2位の戦いは、好試合間違いなし。 そうした試合前の予想を超える、素晴らしい試合を振りかえってみたい。 ――― 第1セット第1ゲーム 今大会好調のサービスから始まったフェデラーは、ラブゲームで第1ゲームを獲得した。 8月で34歳となるフェデラーは、全盛期とはまた違ったプレースタイルで進化を続けている。 好調なサービスに、積極的にネットプレーをしかけている。 早いゲームであればフェデラー、ストロークが続けばジョコビッチだろうか。 第6ゲーム フェデラーは、ジョコビッチのサービスをラブゲームでブレイクする。 フェデラーの正確無比、そして力強いショットにジョコビッチはリズムをつかめ切れていない。 フェデラー4-2 第7ゲーム 珍しく、フェデラーは3度のミスを犯し、ジョコビッチにブレイクバックを許す。 フェデラーがミスをしたというよりも、ミスを犯させた。 さすがはジョコビッチだ。 フェデラーが盤石であれば、ジョコビッチは鉄壁、という表現がぴったりだろう。 フェデラー4-3 第10ゲームまで、フェデラーのミスは8、ジョコビッチはなんと1つしかない。 展開の早い淡々とした試合運びだが、内容は濃い素晴らしいゲームである。 第12ゲーム、フェデラー6-5 マレー戦では、このタイミングでギアを上げ、相手のサービスをブレイクしてきたフェデラーは、この試合でもギアを上げる。 30-30 ストロークの打ち合いから、ジョコビッチにバックハンドのミスが出る。 大きな声で「カモン!」と叫ぶフェデラーにブレイクチャンス、そしてセットポイントが訪れた。 30-40 ジョコビッチはやすやすと譲らない。 ワイドへのサービスで、フェデラーのミスを誘う。 40-40 フェデラーは、リターンで仕掛ける。 相手のセカンドサービスで前に出て、ボレーを決める。 決して、守りに入らないフェデラーは攻め一辺倒だ。 アドバンテージはフェデラーだが、ジョコビッチもサービスエースで譲らない。 再びデュース。 2度のピンチを迎えながら、ジョコビッチはサービスをキープする。 簡単に譲らないところは、ジョコビッチの充実ぶりをしてしている。 第1セットからタイブレイクに突入する。 ジョコビッチは、ネットの外から回す素晴らしいショットで、フェデラーのサービスをブレイクする。 ジョコビッチは、自分のサービスを2本キープし、ジョコビッチ3-0。 フェデラーの2本目のサービスは22回のラリーの末に、ジョコビッチのフォアのウィナーが決まる。 ジョコビッチ4-1. 最後はフェデラーのショットがアウトとなり、ジョコビッチがタイブレイクをものにする フェデラーの火の出るような攻めの姿勢に、ぶれることがないジョコビッチの受けの姿勢。 素晴らしいショットはフェデラーのほうに多いように思うが、ジョコビッチはミスを少なくして、ポイントを奪っている。 攻めに攻めるフェデラーは決める時は早い展開で派手だが、ジョコビッチは静かにポイントを重ねた印象だ。 サービスブレイクはフェデラーが先だったが、気持ちを揺るがすことなくジョコビッチはブレイクバックを奪う精神力は、さすがに世界1位。 最強の矛と盾の戦いは、しのぎ切った盾のジョコビッチが勝ち、第1セットを奪った。 ――― 第2セット 第5ゲーム フェデラーに第2セット初めてのブレイクチャンスが来る。 1度目はバウンドが変わり、2度目は足を滑らしたジョコビッチは、それでもそのピンチをしのぎ切る。 第10ゲーム ジョコビッチ5-4。 フェデラーのダブルフォルトで、ジョコビッチにチャンスが訪れる。 いらだつフェデラー。 30-40 ここで簡単に譲るフェデラーではない。 フェデラーのサーブアンドボレーに、思わず拍手を送るジョコビッチ。 セットポイントを握られたフェデラーは、苦しみながらもサービスをキープした。 5-5 第11ゲーム、ジョコビッチのサービス バックハンド、フォアハンドの2本の素晴らしいウィナーを決めて、逆にフェデラーはブレイクチャンスを手にする。 ピンチの後に、チャンスが来るとはよく言ったものだ。 それは、ただ漫然と待っているものではなく、自らが自分の意思で強引に持ってきたものだ。 2人の精神力の強さは、どうなっているのだろう。 思い入れたっぷりにプレーを見る観客の表情は、まるで子どものように、ワンプレーワンプレーに一喜一憂する。チャンスに喜び、ピンチに切ないものになっている。 前に乗り出す姿勢は、すべての観客に共通しているものだ。 素晴らしいプレーに声を上げるのは、テレビの前の自分も一緒である。 スポーツ観戦するのであれば、こうでなければ面白くない。 4度のデュースの末にジョコビッチはサービスキープを果たす。 この大事な場面でギアを上げるフェデラーの嗅覚はさすがであり、それを押し返すジョコビッチも見事。 ジョコビッチ6-5 第12ゲーム フェデラーはサービスキープし、第1セットに続いてタイブレイクに突入する。 ジョコビッチのサービスから始まる。 ジョコビッチは、ラインぎりぎりのショットを見送り、それがインとなる。 珍しく消極的な姿勢だ。 まずは、フェデラーのワンミニブレイク。 フェデラー1-0 すかさずジョコビッチが2本ブレイクし返す。 フェデラー1-2、自分のサービスでポイントを取れていない両者の心境はいかばかりか。 ジョコビッチはまたもやミニブレイクを獲得し、フェデラー2-4となる。 この後、フェデラー、ジョコビッチとも、自分のサービスでポイントを重ね、フェデラー5-6. 27回のラリーに、観客は大拍手、そしてため息。 甘い球など一つもなく、すべてのショットがハードショットだった。 観客からの両選手への掛け声も熱がこもってくる。 ジョコビッチはサービスを決めれば、このセットを獲得できたが、フェデラーもやすやすと譲らない。 カウンターショットで、ジョコビッチのサービスをブレイク。 3度のセットポイントを防いだフェデラー。 6-6となる。 フェデラー6-7で迎えたフェデラーのサービスを、ボレー2本で、サービスキープ。 逆に、フェデラーがセットポイントを迎える、フェデラー7-6 ジョコビッチもサービスを2本キープ、フェデラー7-8 フェデラーのサービス2本目で、ジョコビッチの深いショットがフェデラーのミスを誘う、フェデラー8-9. ジョコビッチはこのチャンスを生かせない。 ジョコビッチの深いショットがラインを割り、10-10. フェデラーはワイドのサービスを読み切り、素晴らしいリターンでジョコビッチのミスを誘う。 2本のミニブレイクで、逆にフェデラーにチャンスが来る、フェデラー11-10 フェデラーはセカンドサービスでも、果敢にネットに詰め、ボレーを決めた。 このセットを奪ったフェデラーは、明らかに自分のプレースタイルを貫きながら、ジョコビッチの「盾」を突き破った。 そのプレーの素晴らしさよりも、追い込まれても跳ね返すその精神力に目が行く。 観客は総立ちで、第2セットの激闘を制したフェデラーに、この日一番の拍手を送る。 ――― 第3セット。 テニスは分からないもの。 というよりも、この2人の強さゆえだろうか。 第1ゲーム 勢いに乗れるような場面でのフェデラーのサービスで、15-40と追い込まれるが、フェデラーはサービスをキープする。 フェデラー1-0 第2ゲーム ジョコビッチ0-30、そして30-40のピンチを迎えるが、こちらもサービスキープ。 ゲームのバランスは崩れない、1-1. 第3ゲーム 15-40から、ジョコビッチが3連続ポイントで、ブレイクチャンスを迎える。 最後は、フェデラーにミスが出て、ジョコビッチがフェデラーのサービスをブレイクする。 ジョコビッチ2-1 メンタル面でのチキンゲームをしているような、心がすり減るような試合展開では、ちょっとしたことで試合の流れががたんと傾く。 第5ゲーム フェデラーがサービスをキープしたところで、雨脚が強くなり、試合が中断される。 ジョコビッチ3-2 この中断はどちらに有利になるだろうか。 年齢を考えると、フェデラーにとっては、体力面でのしばしの休息となりそうである。 中断後の第6ゲーム 難しい試合の入りだったが、ジョコビッチはサービスをキープする。 ジョコビッチ4-2 第10ゲーム、お互いがサービスキープをし続けたジョコビッチ5-4. ジョコビッチはラブゲームでサービスキープ。 このセットはジョコビッチのものだ。 セットカウントは、ジョコビッチ2-1となる。 雨で熱が覚まされてしまったのだろうか。 中断後は、やけにあっさりとした展開となってしまった印象がある。 ――― 第4セット 2-2で迎えた第5ゲーム。 最初のブレイクチャンスをつかんだのは、ジョコビッチ。 30-40からジョコビッチの深いリターンにフェデラーがミスを犯す。 ジョコビッチがサービスブレイクを果たし、3-2とする。 第7セット またもフェデラーは30-40とピンチを迎える。 3度のブレイクピンチを跳ね返したフェデラーに、観客から大きな拍手と歓声が起こる。 サービスキープし、ジョコビッチ4-3 第8セット フェデラーはギアを上げる。 0-30としながらも、ジョコビッチはバックへの鋭い2本のサーブと、フェデラーの2本のミスでサービスをキープする。 フェデラーの猛攻にもひるまないジョコビッチ5-3 第9ゲーム ここで息の根を止めようと、ジョコビッチも攻める。 ラインぎりぎりのショットで15-40とフェデラーを追い詰める。 戸惑いとと読め気が交差するスタジアム。 最後は、フェデラーの動きを読んだフォアが決まり、フェデラーが6-3でこのセット、そして決勝戦を制した。 両手を何度も突き上げ、センターコートの芝を口にする。 このフェデラーの恐るべき質の高いテニスを打ち破るとは、なんと高い壁だろう。 ――― フェデラーの攻めに、今までの対戦相手は精神的に責められていた。 決勝でも、相手の心を折るような、その質の高いプレーは健在だった。 しかし、相手はジョコビッチ。 精神的にもタフでなければ、世界1位の座を守れない。 フェデラーのきつい炎のような責めにも、根を上げることなく丁寧に対応し、フェデラーは徐々にプレッシャーをかけられていた。 正確で深いショット、守備範囲の広いフットワーク。 この大会、やはりジョコビッチは鉄壁であり、最高の盾だ。 2015年のウィンブルドン、テニスの世界では、矛盾は「盾」の方が強かった。 フェデラーは強く、ジョコビッチは強すぎた。 マレー戦で見せた、盤石の強さを見せたフェデラーに思い入れが入っていたが、前人未踏の8連覇には届かなかった。 しかし、手に汗握る試合展開だったのは、フェデラーがいたからこそ。 観客の声援の多さは確実にフェデラーの方が大きく、プレーで魅了したのはフェデラーだった。 3年前の決勝には、ボレーがわずか7回しかなかったが、この試合は42回。 フェデラーのプレーの変容が分かる。 変化を恐れず、進化をする。 昔とはまた違った強さを見せた、フェデラーのテニスは観るものを勇気づけた。 勝負に勝って、試合に負けたような感覚が残る、フェデラーに惜しみない拍手を送りたい。 ジョコビッチには、ウィンブルドンの栄冠があるのだから。 ジョコビッチは、グランドスラム大会の優勝は9度目。 このライバル関係の試合も、今後も楽しみにしたい。 テニスには、流れがある。 しかし、その流れに身を任せるのではなく、流れは選手自らが持ってくることができる。 意志の力でどうにでもなる。 そうした、強固な意志を感じた試合だった。 まるで名画をみたような感覚が残る。 観てよかった、見逃さずによかった、と心から思う試合。 あぁ、テニスって面白い! PS 毎回思うのだが、試合後のインタビューの質が高い。 インタビュアーも元テニスの名選手であるから、問いかけもそしてそれに応える言葉も素晴らしいものがある。 柔らかい笑みを浮かべるフェデラーの表情、そして優勝したジョコビッチを称えるコメントは、心からのものであり、素晴らしいなと思う。 結果を受け止めるフェデラーのインタビューに自然と拍手が起こる。 これぞプロだ。 「また戻ってきたい」 モチベーションが下がることなく、フェデラーの戦いは続く。 ジョコビッチも、この戦いに感謝と尊敬を送る。 自然と涙が出そうになる。 「とにかくプレッシャーをかけ続けなければならない」と語るジョコビッチ。 フェデラーの強さを覚悟したうえでの、戦いだったのだ。 今年の芝はとてもおいしかった、と語るジョコビッチ。 それは、フェデラーがいたからこそだ。 あまりに強すぎて、自分のベストを尽くすしかなかった、と語るジョコビッチとフェデラーは、魅力的なライバル同士だ。 今年のウィンブルドンは素晴らしく、また来年のウィンブルドンが待ち遠しい。