女子シングルス決勝で、第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が21歳の新鋭で第20シードのガルビネ・ムグルッサ(スペイン)にストレート勝ちし、3年ぶり6度目の優勝を果たした。優勝賞金は188万ポンド(約3億6000万円)。  セレナのグランドスラム優勝は昨年の全米、今年の全豪、全仏に続く4大会連続で、メジャー通算優勝回数は21回になり、シュテフィ・グラフが持つ22回の記録にあと1勝と迫った。8月末からの全米オープン(米国・ニューヨーク)で、通算記録とともに、やはりグラフ以来になる年間グランドスラム達成を目指すことになる。  テニスはつくづくメンタルの勝負だ。セレナの世界ランキング1位とムグルッサの20位では所有ポイントの差は9216、雲泥の差がある。グランドスラム優勝の獲得ポイントが2000だから、2人の実績は“年間グランドスラム達成”に匹敵する。しかもセレナは4大大会の通算出場が59回、決勝進出が24回、優勝が20回という莫大な経験を踏んできた――そんな女王でも、テニス発祥の大舞台の最終日になれば緊張にしびれてしまうのだ。  セレナのサーブで始まった第1セットの第1ゲーム、いきなりダブルフォルト。ポンポンとウィナーを決めて40-15まで行きながら、ダブルフォルトでデュース。そのデュースを4度重ね、セレナが3本のブレークポイントをかわすまでは達観していた大観衆が、4本目にブレークされるのを見て俄然、疑心暗鬼になった。セレナはリターンでも図抜けた能力を持っているが、ムグルッサはリスキーなサーブ、ショットで攻め込んで、なかなかブレークバックを許さない。  振り返れば、ムグルッサにとって惜しかったのは2-0リードの第3ゲームだろう。0-30からチャンスを広げられなかったが、ここで一気に4-0まで持って行けば、別な展開があったかもしれない。この大会は、挑戦者らしい攻撃と粘りで3試合のフルセットを勝ち抜いてきた。その姿勢はこの日の決勝も変わらず、第6ゲーム、15-40の窮地からウィナーを4本続けて決め、サービスゲームを死守している。昨年の全仏2回戦で、クレーコートだったとはいえ、セレナを倒したことのある自信が後押ししていた。しかし、そこからセレナの本気がコート内に破裂するようになる。  セレナは第7ゲームを時速195kmのエースを皮切りにラブゲームでサービスキープすると、第8ゲームであっさりブレークバック。ここまでの試合時間35分が、まるでハンディキャップゲームだったように、第10ゲームを連続ブレークして第1セットを奪った。  セレナでさえ緊張する決勝の舞台だ。ましてそのセレナを向こうに回した21歳にのしかかる重圧は想像を超えるものだっただろう。ムグルッサは、ベースライン深くに叩き込まれる重いボールを必死に打ち返し、すきを見ては反撃に転じて女王を慌てさせた。第2セットの流れは、とりあえず一方的だった。セレナは第3ゲームにも連続ダブルフォルトをおかしたものの、連続エースで処理するところまで自信を回復させ、第4ゲームから12ポイント連続で奪って一気に5-1まで持ち込んでしまう。  それでも、ムグルッサの攻撃的な姿勢がプレッシャーになっていた。第7ゲームでブレークバックを許し、第9ゲームではマッチポイントまで握りながらブレークされ、観客が大喜びする嫌な雰囲気で5-4と追いつかれてしまった…… ただ、グランドスラムでの経験がベスト8までだった新鋭には、心身ともに限界だった。第10ゲーム、崩れるようにラブゲームでブレークされてラケットを置いた。  全仏からウィンブルドンと、セレナにとっては必ずしも万全な内容での優勝ではなかった。波が激しく、立ち上がりに苦しみ、今大会も3回戦では地元イギリスのヘザー・ワトソンにあと一歩のところまで追い詰められた。  それでも、そこからビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、マリア・シャラポワ(ロシア)という、3人のグランドスラム優勝者の挑戦を退け、今のずば抜けた実力を示した。次のメジャー大会は、最も得意とするハードコートの全米オープン。あらゆる記録を塗り替える勢いである。 文:武田薫