この日、男女のベスト8が一気に出そろう予定だった。女子では第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、第4シードのマリア・シャラポワ(ロシア)、男子ではロジャー・フェデラー(スイス)らが勝ち上がったものの、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)の試合はセットカウント2-2で、日没順延された。  注目されたのは女子の4回戦、ウイリアムズ姉妹の激突だ。姉妹対決はこれが26度目で妹のセレナの14勝11敗。ウィンブルドンでの5度の対戦(4度が決勝)は3勝2敗、グランドスラムでは通算13度目で過去7勝5敗と、いずれもセレナが姉ビーナスを凌駕してきた。ビーナスが好調とはいえ、35歳。故障も続いて往年のパワーは影を潜め、年間グランドスラムの記録がかかったセレナの戦いぶりが注目された。  セレナののびのびしたプレーが印象的だった。3回戦で地元選手にアタフタとした姿は影も形も消え、女王らしい強烈なサーブ、自信にあふれたショットがセンターコートを唸らせた。第1セット、いきなりラブゲームでブレークし、さらにラブゲームでサービスキープ。しかし、第4ゲーム、ビーナスが、姉妹関係を忘れさせる激しい打ち合いに出てブレークバックし、どうなることやらという雰囲気を断ち切って試合は白熱した。  セレナが6本のサービスエース、74%のファーストサービスから75%の高いポイント率でこのセットを奪った。第2セットに入ってからのビーナスが素晴らしい。セレナの5度の優勝に対し、ビーナスにも同じく5度優勝の意地がある。この日のセレナは特にリターンゲームが良く、ベースラインへの深い返球で追い込んだ。それをビーナスが必死に守り、第7ゲームまでに3本のブレークポイントをかわして食い下がった。しかし、その第7ゲームのデュース、セレナのバックハンドのウィナーがクロスに決まって力尽き、6度目のブレークポイントはダブルフォルトだった。 「セレナ・ウイリアムズはコートの外では妹でも、コートに出ればただの対戦相手よ」  姉ビーナスの言葉はその通りだろう。その通りであることが、恐らく、いまの妹にとってはとても重要だった。セレナは先の全仏オープンから苦しい戦いを続けてきた。ウィンブルドンに入っても、3回戦は格下の相手にあと2ポイントの土壇場まで追い詰められるという不安定さを露呈。持てるパワーを再びショットに乗り移らせるためのカギは、何と言っても自信の回復にある。4回戦というタイミングで、手の内を知った相手、ツアーを代表するパワーヒッターに打ち勝つことは、2週目を勝ち上がっていく起爆剤になる。そのためにも、ビーナスは手加減など出来なかったはずだ。  セレナは初物に弱いと言われるが、この先の流れを見れば、次の準々決勝の相手ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)との対戦成績は16勝3敗、準決勝で当たる可能性の高いシャラポワとは17勝2敗で16連勝中。この日のビーナスとの真剣勝負は、セレナ・スラム(特定の選手が過去1年間の全グランドスラムで優勝することを○○スラムと呼ぶ)から年間グランドスラムを狙う女王にとって、大きな意味を持つかもしれない。  女子では第20シードのガルビネ・ムグルッサ(スペイン)が第5シードのカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)を破り、ウィンブルドンで初の8強入り。ノーシードのココ・バンダウェイが第6シードのルーシー・サファロバ(チェコ)を破り、セレナ・ウイリアムズ、第21シードのマディソン・キーズとともに米国勢3人が準々決勝に進んだ。  男子ではジョコビッチがケビン・アンダーソン(南アフリカ)に2セット先取され、そこから2セット挽回したところで日没サスペンデッド。第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)、地元のアンディ・マレー、全仏優勝のスタン・ワウリンカ(スイス)、昨年の全米優勝のマリン・チリッチ(クロアチア)らは順当勝ち進んだ。また、リシャール・ガスケ(フランス)が話題の新鋭ニック・キリオス(オーストラリア)を倒し、ノーシードのバセック・ポスピショル(カナダ)らとともにベスト8に入った。 文:武田薫