2014年4月26日。 マドリードのファイナル、ナダルとの悲劇的な決勝戦以来の出場となった錦織圭が、ローランギャロスの1回戦を戦った日です。 淡い期待とは裏腹に状態が思わしくなく、まるで翼を怪我した鳥のようにもがき、コートを去る姿は忘れられないものがありました。 「本当にがっかりしている」 とうつむいていた日本の若者は、あれから372日たった今日、驚異的とも言える成長を遂げ、センターコートの準々決勝を戦います。 今大会は始まる前から不思議な風が吹いていたように思います。 本当にちゃんと抽選しているのかと思う程ずっと同じハーフにいた王者ジョコビッチは逆の山へ。 調子は上がらずともローランギャロスの大本命である、この大会5連覇中の土の魔人・ナダルも逆の山。 マドリードで完敗したマレーも然り、天敵とされるガスケも然り。 しばらく対戦のなかったベルディフの山に入ったこともそうですが、5名いた日本人選手が全てこのベルディフの山にいたこともまた不思議。 グランドスラムに出場するような選手に楽な相手など居ないとは思いますが、これまでの錦織のドロー運から考えると比較にならない程のドローが巡ってきたという印象は正直隠しきれない程でした。 初戦は優勝見届人とも言う程、その後のチャンピオン達とローランギャロスで対戦してきたポール・アンリ・マチューに快勝。 2回戦は前週の250ジュネーブを優勝した絶好調のベルーチを相手にここも完勝。 3回戦は対戦すると思われたベルダスコを死闘の末に撃破したベッカー、しかし前日にまさかの棄権でW/O。 3日間のオフを挟んで行われた4回戦、ここまで全てストレート勝ちしてきた好調のガバシュビリでしたが、これも一蹴。 ここまで良い内容で、また気力・体力が充実して臨めるベスト8は初めてだと思います。 僅かに見えてきた頂点まであと3つ。 相手は第4シードのベルディフを破ったフランスのスター選手、ジョー=ウィルフライ・ツォンガとなりました。 ツォンガといえば2年前のローランギャロスではフェデラーを破りベスト4に入ったことや、また去年のトロントのマスターズでジョコビッチ、マレー、フェデラーを立て続けに破って優勝したことなどが記憶に新しいところです。 ドラえもんに出てくるジャイアンを連想するような、どこか親しみのある風貌、そこから繰り出されるパワープレー、爆発的なフォアハンド、そしてビッグサーブが武器のナイスガイで、秋のジャパンオープンにもよく訪れてくれる、私もとても好きな選手の一人です。 最近は怪我の影響からか安定した成績ではありませんが、今大会は地元フランス選手最後の砦として、苦手ベルディフを破ってただひとり#8圏外からの勝ち残りを見せています。 錦織圭を語る上でも、ツォンガは欠かせない存在とも言えます。 躍進のひとつのきっかけとなった2011上海MS(3R)では当時トップ10だったツォンガと初対戦、フルセットの末にこれを破り、初のMSベスト4進出への原動力となりました。 またその翌年には全豪オープン(4R)で、ここでもフルセットで勝利、日本人として松岡修造以来となるGSベスト8進出を達成しました。 2013上海MSでは前週の楽天オープンで負傷した錦織にツォンガが雪辱を果たしましたが、直後のパリMSではまるで神がかりのような大逆転の末に錦織が勝利、これはツォンガも相当に堪えたでしょう。 一年ぶりの対戦となった2014パリでは初めてランキングが逆転し、ツアーファイナル出場のため負けられない錦織がここもフルセットで勝利。 錦織圭にとってツォンガは乗り越えるべき壁としていつも対戦する存在で、対戦回数は違いますがなんとなくフェレールとも立ち位置の存在感が似ているようにも思うところです。 今回の対戦も、もちろんそうした意味を持つ一戦となるでしょうが、どのような戦いになるでしょうか。 錦織がツォンガやベルディヒ、フェレールといった選手と何年も前から比較的相性がいいと言われている根拠のひとつに「ストロークの相性の良さ」があると思います。 錦織の生命線であり、世界最高峰の武器でもあるバックハンドのクロスからのラリーで優位に立ち、踏み込んでウィナーを量産する錦織のスタイルによく噛み合うのがこの選手達に当てはまると思うのです。 逆に苦手とされるバブリンカやガスケなどは片手バックハンドから素早いタイミングで攻撃を仕掛けてくるので、錦織がウィナーを量産される場面が目立ちます。 ですから錦織としては、いつも実行していますがツォンガのバックハンドにボールを集めつつ、勇気を持って踏み込んでいくプレーが必要になってくると思います。 モンフィスやガスケ、シャルディに寄せられていた声援が、今日はそのすべてがツォンガへと送られることになるでしょう。 錦織はこの超アウェーの雰囲気、遥かに見上げる存在だったツォンガという名前、グランドスラムのベスト8であるというプレッシャーに心を惑わされることなく、今大会のパフォーマンスを見せ続けられるならば、ここでも優位に試合を進めることは、私は可能と思います。 今期は調子のいいところで全豪のバブリンカ、マイアミのイズナー、マドリードのマレーと、相手に気持ちよくプレーさせてしまっての敗戦が目立ちますが、果たして今日はどうでしょうか。 本日の試合は日本時間午後9時に開始する試合からの2試合目。 女子の試合ですから2時間程度とするなら午後11時前後の開始となることが予想されます。 注目度は日増しに高まるばかりですが、まずは自分自身の心を整えて楽しみにこの一番を楽しみたいですね。 女子の試合とは対照的に、上位選手の安定感が目立つ今大会。 今の自分の力を強く信じて、錦織圭が更なる一歩を踏み出すことを期待したいと思います。