伊藤竜馬、西岡良仁、ダニエル太郎、日本の男子3選手が格上選手に挑戦し、いずれもストレートで敗れた。シングルス2回戦に上がった選手は錦織圭と女子2人だけになった。  今大会では、ダニエル太郎と西岡良仁が予選を突破し、日本から計5人の男子選手が本戦入りを果たした。全仏オープンでは1967年の6人以来、4大大会でも73年のウィンブルドンに5人が出場して以来の明るいニュースだった。ダニエルが22歳、西岡は19歳とポスト錦織を担う選手たちに期待は大きいが、この流れに共通していることがある。錦織を含めた3選手はいずれも日本でテニスを始め、その後、ダニエルはスペイン、西岡は錦織と同じ米国フロリダと、早くから海外で訓練を受けてきた点だ。男子に限らず、女子でも17歳の大坂なおみも米国を拠点にしている――国外の波に早く馴染むことが、世界展開のツアーを生き延びる重要なポイントであることは間違いない。  この日の3人の中で、最も厳しいドローになったのが西岡だ。初めての全仏オープン本戦出場に、第4シードのトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)の壁は高かった。 「初めての全仏、初めてのトップ10相手で、気持ちが舞い上がってしまい、自分のやりたいプレーが出来なかった。第1セット、0-6になって焦りました」  身長170cm、体重63kgいう小柄な体格。一方、ベルディヒは196cm、91kgらのサーブ、ショットが迫力満点で、第1セットに西岡が奪ったポイントはベルディヒの28に対し12だけ。しかし、第2セットから試合の形になった。西岡のもう一つの特徴は気の強さだ。フォアサイドへの返球を避け、バックの高い地点にボールを集めてラリー戦に持ち込んでミスを誘い出した。第11ゲームまで、互いにサービスキープ。5-6からの第12ゲームに強烈なフォアからの攻撃に脱帽したが、この互角のやり取りで大きな手応えを得たようだ。昨年の全米オープンも予選を突破したが、本戦1回戦でリタイアしただけに、今回は戦い切った満足感があった。 「トップ10の実力を体感できたのは大きいです。これからチャレンジャー大会での試合が続くと思いますが、エネルギーになると思います」  フロリダ・キャンプではよく錦織圭と練習している。 「テニスの話はあまりしませんが、プレーから学ぶことがたくさんある。圭君も身体は大きくないけれど、攻撃的で色々な球種を使った配球を見習いたい」  錦織も19歳の頃は体力がなかった。4大大会の中でも最も難しいとされる全仏予選を突破しただけに、これからが楽しみだ。  ダニエル太郎の相手も、クレーコートで数々のドラマを作ってきたベテラン、フェルナンド・ベルダスコ(スペイン)だった。俊敏なフットワーク、抜群のスタミナを土台に、強烈なカウンターパンチを浴びせてくる。第1セットの第2ゲームをいきなりサービスブレークされたが、第3ゲームでは果敢にネットに飛び出してブレークバック。スペインのバルセロナを拠点にしているだけに、スペインのクレー巧者に物怖じするところが少しもなかった。 「相手が左利きというやり難さもあったし、僕がフォアハンドを思い切り打っても、コートの外から強烈に打ち返してくる。もう少しチャンスがあると思ったんですが、パワーの差があった。でも、ラリーが続けば僕が勝っていたとも思う」  27歳になった伊藤竜馬も、天才肌のファビオ・フォニーニ(イタリア)にストレート負けだった。伊藤は現在世界ランキング106位と、本人に言わせれば「中途半端な位置」にいる。 「体力は充実していても、いろいろと考え過ぎてバラバラな状態。この大会の準備のスケジュールでもすごく悩んだ。1試合で変わる可能性もあるけど、すべて曖昧ですね」  ツアー大会の予選に回るか、格下のチャレンジャー大会でコツコツとポイントを積むか――こうした判断は選手それぞれの事情が絡んで難しいが、それは個人事業主である選手の決断次第だろう。本戦入りを果たした5選手は、コート上のやり取りだけでなく、生活そのものの戦いも抱えている。ところで、錦織圭の2回戦の相手がトーマス・ベルッチ(ブラジル)に決まった。ベルッチは左利きで、前週のジュネーブ・オープンで3年ぶりに優勝。通算4度の優勝すべてがクレーコートというのも不気味だ。  男女とも上位シード勢が勝ち進む中で、第14シードのアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)がドイツの新鋭アニカ・ベックに敗れる波乱があった。 文:武田薫