今大会第5シードとして出場する日本のエース、錦織圭が、33歳のベテラン、ポール・アンリ・マチュー(フランス)をストレートで破り、2年ぶりに全仏オープン1回戦を突破した。グランドスラムの初戦には独特の難しさがある。しかもこの日のコート、スザンヌ・ランランは徹底した地元びいきで知られた舞台。繰り返される「ポール」コールが沸き上がっても錦織は平然としたもので、第3ゲームを早々にブレークしてリードを奪ってからは、自分のサービスキープに専念。5-3からの第9ゲーム、得意のバックハンドを利かせて再びブレークに成功して先手を奪った。  第2セット、第2ゲームをいきなりブレークしたのが大きい。マチューは過去全仏で2度4回戦まで勝ち上がった経験を持つクレー巧者とは言え、最後に4回戦に進出したのは7年前の話。2011年に膝の手術を受けてからはチャレンジャー大会での挑戦が増え、その間に錦織の成長を観察してきたという。 「圭は本当に素晴らしい選手だ。ボールが速く、特に彼のフォアハンドにはスペインの選手とは違う攻撃力がある。この2、3年の成長を見ながら、いずれこの大会で優勝する選手だと思っていた」  マチューは攻撃のリズムに変化をつけ、第2セットに入ってからは何とか突破口を開こうとリスキーなショットを繰り出してきた。この日の錦織のマイナス面はファーストサーブの確率の低さ。それもグランドスラム緒戦の難しさだろうが、第1セットが41%、第2セットも44%。2-0とリードしてから集中力が途切れたか、第3、第5ゲームはいずれもダブルフォルト絡みでブレークされて2-3と形勢を引っくり返された。それでも続く第6ゲーム、フォアハンドのウィナーを決めるなど、ラブゲームでブレークバックしたのが大きかった。その後、互いにサービスキープで進んだ第12ゲーム、デュースに入って掴んだ最初のセットポイントで、好運のコードボールがネットの向こう側に転がり落ちてくれた。タイブレークに入れば、相手は一か八かの勝負を賭けてきただろう。貴重な1ポイントだった。  ここ1、2年間、マチューはツアーでの勝ち星がほとんどない。「勝てなければ自信はどんどん下がっていく」と洩らし、上り調子の錦織との差は隠せず、第3セットは6-1で勝負がついた。錦織はストレート勝ちの省エネ勝利に胸をなでおろした。 「ファーストサーブが入らなかった半面、セカンドサーブがよく跳ねてくれた。リターンも、なかなか前だけでは攻められないので、後ろからの重いボールも混ぜ、考えながら戦っていきたい」  2回戦の相手は、第2日に戦うマリンコ・マトセビッチ(オーストラリア)とトーマス・ベルッチ(ブラジル)の勝者、クレーコートで4度の優勝経験のあるベルッチが有力だ。  その他の日本選手では、添田豪が第22シードのフィリップ・コールシュライバー(ドイツ)にストレート負け。女子は土居美咲がペトラ・チェトコフスキー(チェコ)を倒して全仏初勝利を飾り、奈良くるみはワイルカード出場の18歳、オセアヌ・ドダン(フランス)に逆転勝ちを収めた。  上位勢は、男子の第2シード、ロジャー・フェデラー(スイス)、第8シードのスタン・ワウリンカ(スイス)、地元フランスの人気者、ジョー・ウィルフライ・ツォンガらが順当にストレート勝ちを収め、女子も第3シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)、第7シードのアナ・イバノビッチ(セルビア)、第9シードのエカテリーナ・マカロワ(ロシア)らが波乱なく勝ち上がっている。 文:武田薫