昨日の記事の後、コメント欄でTSDさん(two-set-downの管理人さん)と議論をさせていただきました。充実したやり取りをさせていただいたものの中々結論が出ず、最後に私が頼ったのがMTFというサイトでした。”Mens Tennis Forum” このサイトは世界中のテニス好きが日夜議論や情報交換や煽り合いを繰り広げている場所です。  ここで調べ、ルールブックとも照らし合わせたところ、なんと今年からランキングシステムにマイナーチェンジが施されていることがわかりました。具体的には、今までは罰則回避とボーナス受給資格にしか使用できなかったMS出場義務軽減制度が強化され、この権利をランキングにも適用できるようになったということです。いくつか解説ポイントを載せておきます。 ①必ず前もって棄権の届出をしないとならない。  アメリカ東部時間で金曜日の正午までに届出をし、エントリーリストから外れなければいけません。ドローが出てからの棄権や初戦敗退でポイントが稼げなかった場合などに後出しで使用することはできないようです。 ②義務軽減条件のうち、【条件1】通算600試合以上【条件2】12試合以上プレーした年から数えて12年間のプレー ここも注意が必要のようです。「2010年以降はATPツアー・GS・デ杯・オリンピックに限りカウントする」という規定があります。つまり逆に考えれば09年以前はチャレンジャーやフューチャーズもカウントしてよいということです。単純な試合数合計ではないので計算し辛いですね。  【条件3】31歳以上であること、と併せて軽減条件を1つ満たすごとに1つマスターズ欠場権利が生じます。3つになるとMSの参戦義務がなくなるのは前回の記事の通りです。 ③上記の条件を満たしてマスターズを欠場した場合の取り決め  まず錦織のランキングポイント内訳。これが通常の選手のものです。錦織は負傷で出られなかったマスターズが3つありますがそれらはすべて「0ポイントしか取れなかった1大会」として加算されています。  次にベテラン31歳ベルダスコのランキングポイント内訳を見てみましょう。ベルダスコは一昨年終了時点で既に600試合を突破しており昨年は軽減措置ありで迎えたのですが、欠場した2度のマスターズはいずれも0ptで強制加算されています。従来の制度ではこのベルダスコのようになります。選手としてペナルティを与えられることはなくとも、ランキングとしてはきっちり0ptの1大会として計上されていたのです。  ここまで確認したところで、インディアンウェルズを負傷で欠場した世界ランク13位ツォンガのランキングポイント内訳をみてみましょう。なんとインディアンウェルズの記述がどこにも見当たりません。義務軽減措置によってインディアンウェルズの出場義務が完全に消滅したのでランキングポイントの内訳にすら載らなくなったのです。  次は具体的にこれによってもたらされるメリットを見てみましょう。 ◎ベテラン選手の戦略を変えるかも?  フェデラーは現在自由に使える枠6大会がちょうど埋まっています。このためこれ以上500や250の大会に出ても既存の大会との入れ替えになってしまいます。だがフェデラーは正規の手続きをもってマイアミを欠場したためこれが軽減措置の対象になります。今年加わった新ルールの肝は、軽減措置が適用された大会の数だけほかの大会から持ってきて補えるというオトクな仕組みです。フェデラーが4月末参戦予定のイスタンブールに出場すればこの規定が適用され、フェデラーはイスタンブールの分を7大会目として加えることができるようになります。マイアミでベスト8に入るより大きなポイントがイスタンブールで優勝すれば手に入るのです。  つまり軽減措置を手にした選手たちは苦手大会を戦略的に飛ばすことが可能になってきます。もちろんマスターズは1000ptを手に入れるチャンスですし上位陣にとっては魅力的です。しかしどうしたって苦手な大会は存在するのです。ナダルはシーズン後半の上海やパリでは全力で臨むことが難しいですし、マレーはクレーシーズンが大の苦手です。今回改定された制度がこの後も継続すれば、駄目な大会は事前にスキップしてほかの稼ぎどころに照準を合わせることができるようになります。過酷なスケジュールとなったときに1つ飛ばして休みを取り、ほかの大会で埋め合わせることも可能でしょう。  またIWのツォンガのように怪我でやむなく欠場した場合もここに押し込んで強制0ptを回避できるようになります。本来はこちらのほうがこの制度の趣旨の狙いかもしれません。ベテランになればどうしても増加する怪我。怪我しないのも才能の一つとよく言われます。もちろん怪我しないに越したことはないのですが、どうしても離脱を避けられないときにその影響を最小限にとどめることができるでしょう。 ◎上位陣の資格一覧  最後に上位陣がどれだけ条件を満たしているかの一覧表です。データはMTFよりお借りして編集しています。  意外と多くの選手に影響を与えていることがわかります。