想像以上に厳しい内容とはいえ、錦織圭は上々のスタートを切った。  スペイン生まれのニコラス・アルマグロ(スペイン)はかつてトップ10入りした選手だが、本来はクレーコート巧者。2013年の楽天オープンで錦織にも勝ったとはいえ、昨年はケガで長いこと戦線を離れ、年明けのシドニーから復帰したばかりだ。昨年の全米オープンの錦織と同じ心境だったかもしれない。あのときの錦織も故障上がりで失うものがない「フレッシュ」な気持ちで大会に入った。  第1セットの第1ゲーム、アルマグロの武器、片手バックハンドが炸裂した。15-15から強烈なバックハンドのリターンエース。2度目のデュースでバックのクロスを角度よく決め、いきなりサービスブレークで攻めてきた。この日のアルマグロはサーブもまた絶好調。この日は、同日の夜にサッカーのアジアカップの日本戦が隣のスタジアムで行われることも手伝い、大勢の「日本人応援団」も駆け付けていたが、フラットに叩きつける最高時速216㎞、平均197㎞というアルマグロのファーストサーブには、駆け付けた日本人サポーターも肝を冷やしたようだ。  今年最初のグランドスラムの最初の試合には特別な雰囲気がある。そこを冷静に対処できるのがトッププレーヤーの力だろう。錦織は第4ゲーム、長いラリー戦を制してブレークバックに成功するも、直後の第5ゲームに15-40のピンチ。それでも、サービスのギアを上げてここを逃れ、第10ゲームを再度ブレークして第1セットを先取した。 「きょうはディフェンスが良かったぶん、自分から攻めることができなかった」  錦織はどちらかと言えばスロースターターになる。試合が進行するほど調子を上げ、大会が深まるにつれて攻撃力が増してくるのは、適応力の高さに他ならないわけだが、その意味でも、冷静さがカギになる。第2セットも厳しい戦況だった。  第5ゲームで先にサービスブレークを許してしまった錦織は、第6ゲーム、アルマグロの強烈なサービスの間隙を縫ってラリーに持ち込み、我慢強く4度目のブレークポイントをつかまえて追いついた。第8ゲームも9度のデュースでサービスブレークを先行して5-3とリード。いつもは諦めの早いアルマグロなのだが、やはり病み上がりの決意なのだろう、この日は特別にしぶとかった。フラットに叩きつける感触を楽しむように攻撃の手を緩めず、第10ゲームで再びブレークバックして5-5に。第12ゲームでは15-40のピンチも切り抜けて6-6に並んだ。一気に攻め崩せなかった錦織だが、このタイブレークで積極的に攻め、1ポイントしか与えずようやく試合の流れを引き込んだ。終わってみれば、ストレート勝ち。 「1回戦のドロー運としては最悪に近い厳しい相手でしたから」  簡単に勝つ方がいいに決まっているが、シーズン幕開けには適度な刺激も必要だ。  気になったのは、サーフェス・スピード。全豪オープンのコートは昨年から速くなったと言われ、選手の間には、今年はさらに速くなったという話が流れている。 「ぜんぜん速いですね。有明のセンターコートと同じくらいでしょう。何か大会にも事情があると思いますが……。遅い方がいいですが、まあ、速くても勝てているので」  錦織が苦笑いする大会事情とは、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)とラファエル・ナダル(スペイン)が戦った2012年の決勝が5時間53分の長過ぎる試合だったためとも言われている。それはともかく、速いサーフェスはビッグサーバーに有利になる。ライバルたちの勝ち上がりも気になりながら、2週間の旅が始まった。  この日、日本選手は他に男女2人ずつ出場し、添田豪はエチオピア系スウェーデン人の異色の18歳エリアス・ウマーに苦しみながらもフルセット勝利、グランドスラムでは4度目の初戦突破を果たした。3年前の全米オープン以来、2度目のメジャー出場だった守屋宏紀はジャージー・ヤノビッチ(ポーランド)に敗れ、奈良くるみは第6シードのアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)にストレート負け、クルム伊達公子も敗退した。  全体に大きな波乱はなかったが、女子では第12シードのフラビア・ペンネッタが同じイタリアのカミラ・ジョルジに敗れ、第15シードのエレナ・ヤンコビッチ(セルビア)、男子では第16シードのファビオ・フォニーニ(イタリア)、アレクサンドル・ドルゴポロフ(ウクライナ)らが姿を消している。 文:武田薫