オフシリーズ・閑話球題 ⑯テニスの「数字」その2 各ランキングに求められる成績
こんにちは。
いやー年末にどっと疲れが出るとは言いますが、私も12時間寝てしまうほど疲れてたとは…
大概忘年会のはしごのせいです、すいません。
今日でツアー開幕まであと1週間です。やっと希望が見えてきました。
今日はランキングにまつわる数字その2です。各ランキングに求められる成績を見ていきましょう。
突然ですが世界ランキング1位、ジョコビッチの今年の勝率はいくらくらいだったかわかりますか?クイズです。
当たり前ですが世界ランキング1位なんだからものすごい勝率のはずですよね。
ちょっと下に答えを書きましたが、88.4%(61-8)です。
これを見てどう思われるかは難しいところですが、やや予想より低いと思った方が多いのではないでしょうか。
では世界ランキング10位、フェレールの勝率はいくらでしょうか?
正解は69.2%(54-24)です。
最後に世界ランキング20位、フォニーニの勝率はいくらでしょうか?
正解は60.6%(40-26)です。
この3つのデータを見て気づくことはないでしょうか。
実は勝率の壁がこの辺りにあります。6割程度勝てればトップ20に入れますし、7割程度勝てればトップ10、8割以上勝つとトップ5かそれ以上になれます。
たった1割ずつの差なのですが、これは大きな差なのです。
簡単な思考実験ですが勝率を1割上げるというのはすべての状況で等価ではないことは明らかです。
勝率9割のチームが何度勝っても勝率10割にはできませんし、仮に勝率8割だとしても9割にするまで勝つにはかなりの時間を要します。
一方で勝率0割のチームは勝つとすぐ1割に乗ってきます。
基本的に確率は5割に向かうほうの動きがより強くなります。
これも簡単な話ですが勝率3割3分3厘のチームは1勝2敗で勝率を維持、2勝2敗なら5割に向かいますが、勝率6割6分6厘のチームは2勝1敗で勝率を維持、2勝2敗なら5割に向かいます。
たった1割ずつなんですが、この差が大きいんです。逆に言えば10試合に1試合勝ちを拾えれば、違うステップに進めるということでもあります。
次のグラフを見てみましょう。
ご覧の通り多少の大小はあれど、勝率80%を達成しているのはトップ3(ジョコビッチ、フェデラー、ナダル)、勝率70%をトップ10はほぼすべて達成、勝率60%をトップ20が全員達成、50%近くでもトップ30に入ることができます。
これを見ると驚きですよね。1勝1敗ペースでトップ30なのかと。
もちろんこの数字にもまやかしはありますが、しかし事実は事実。そしてここから意外な事実がわかってきます。
30位付近の選手は初戦敗退が続くような時期も存在する
ということです。当たり前ですがコンスタントに1年間1戦目を勝って2戦目に負けるなんていう機械じみたことはあり得ません。
選手には波がありますし、得意サーフェスの存在もあります。
実際に錦織圭はいい具体例を残しています。2011年、2012年の例を見てみましょう。
2011年(最終25位、36-22、62.0%)
チェンナイ Q(2-1)
全豪 3R(2-1)
サンノゼ 2R(1-1)
メンフィス 予選2R
デルレイ S(3-1)
インディアンウェルズ 1R(0-1)
マイアミ 2R(1-1)
ヒューストン F(4-1)
バルセロナ 3R(2-1)
ベオグラード 1R(0-1)
マドリード 1R(0-1)
ローマ 予選2R後本選棄権
全仏 2R(1-1)
クイーンズ 1R(0-1)
イーストボルン S(3-1)
ウィンブルドン 1R(0-1)
シンシナティ 予選通過1R(0-1)
ウィンストン=セーラム 予選通過3R(2-1)
全米 1R(0-1)
クアラルンプール S(3-1)
東京 1R(0-1)
上海 S(4-1)
バーゼル S(4-1)
パリ 1R(0-1)
デ杯4勝(ランキングポイントには15p加算)
こう見るとほとんど負けてるイメージがないでしょうか。実質大きな加点をしているのは上海+バーゼルの660p、あとはヒューストンFの150pです。
これで810p稼いで、あとはちまちまと稼いで25位(1430p)です。
こんなんで、と言ってしまえば失礼ですがコミットメントプレイヤーの30位に入れます。
ではトップ選手として歩み、全豪8強を経験した2012年はどうでしょうか。実は驚きの結果が出ています。
2012年(最終19位、37-18、67.2%)
ブリスベン 2R(1-1)
全豪 Q(4-1)
ブエノスアイレス Q(2-1)
アカプルコ 2R(1-1)
インディアンウェルズ 2R(0-1)
マイアミ 4R(2-1)
モンテカルロ 3R(2-1)
バルセロナ 3R(2-1)
マドリード、ローマ、全仏欠場
ウィンブルドン 3R(2-1)
ニューポート Q(2-1)
アトランタ Q(1-1)
ロンドン五輪 Q(3-1)
カナダ 2R(0-1)
シンシナティ 3R(2-1)
全米 3R(2-1)
クアラルンプール S(2-1)
東京 W(5-0)
上海 2R(1-1)
パリ 3R(1-1)
デ杯 2勝1敗(ランキングポイントには45p加算)
※パリの1敗は試合前棄権のため、勝率データには反映されていないと推測
特に期待された2月、7月シーズン(上位シードでの出場でした)で、一度もベスト4になれないというふがいない成績(現在から比較すれば)ですが、東京W、全豪Q、ロンドン五輪Q(135p)、で995pを稼ぎ19位(1830p)。
他の選手の例を出すと私が調べる量が増えるのでやめますが、このあたりの中位選手というのは90p付近の成績をちまちま稼ぐか、「年2~3回大爆発、あとは結構負けてる」という成績ばかりです。
実際に考えてみるとランキングポイントに反映されるのは18大会、仮にすべて90pならば90×18=1620pです。この1620pは2014年年末で言えば22位相当です。
90pというのはグランドスラムで3回戦、マスターズで16強、ATP500でQ、ATP250でSの数字で、結構よく出てくる数字です。
ですから錦織がもう10位台中盤とかに落ちるには、これから1年間信じられないスランプにでも陥らない限りまずないと断言できます。
この事実を知らなかった観戦1年目の私はすごくもどかしかったです。
よく見ると春の主要大会ではしっかり勝っているのですが、特に2月7月の成績はかなり悪く、このままじゃランキングが落ちるのは時間の問題だと思っていました。
数回の爆発でこのレベルのランキングはキープできますし、逆に言えばトップ選手にとってグランドスラムの3回戦で当たるこのレベルの選手(17~32位)はさほど脅威ではないことも分かります。
7試合あるグランドスラムの3試合目で躓いているようではなかなか優勝は見えてきません。トップ選手にとってこのレベルの選手に対して力の差を見せつける戦いというのはある種上位ラウンドよりも重要な存在なのかもしれません。
ではここからは1位に求められる成績です。
前回「錦織の成績に各大会もう1勝ずつ加えれればざっと倍の10000pになる」という話をしました。
しかしこれが誤りであることはすぐにわかります。
それは500以下の大会にこれ以上の上積みが望めないことです。
採用されている1680p中の1500pが4大会の優勝によって入っており、これらを倍にすることはできません。
そもそも下部大会だからといって4勝することは非常に難しく、来年もっとランキングがよくなっても500以下で3勝以下である可能性は十分にあり得ます。
したがって500以下の大会で1500p稼いだと仮定しましょう。これはジョコビッチ(1040p)、フェデラー(2635p)、ナダル(1200p)からしてもおかしくない設定であることは明らかです。
すると4大大会+マスターズで8500p稼ぐ必要があり、これは今年の錦織の2945pの約3倍ということになり、錦織圭は1勝もしくは2勝上積みする成績をコンスタントに挙げないといけなくなります!!!
1位なんだから当たり前だろという話ですが、これにも大きなトリックがあります。
錦織圭の勝率のグラフに注目しましょう。ほぼ8割です。ではなぜここまでランキングポイントが低く過小評価されているのか?
答えは簡単です、欠場が多かったからです。
今シーズンの錦織はマスターズ欠場を3つ、全仏と上海は手負いの状態での出場でした。
この5大会でわずか20pでしたが、この5大会で1000p取れていればGS+マスターズで4000p稼いでいたことになり、ほぼ2倍ペースでいいことがわかります。
さて欠場した5大会で1000pというのは、すべてQ(=1080p)というのが現実的な仮定です。ここから1位を取るための成績をはじき出すと
GS→W,S,Q,Q(=3440p)
MS→W,F,F,S,S,S,S,16強(=3730p)
それ以外→1500p
となり、これで8670pとなり、通常であればほぼ2位相当です。
現実的にはこれにグランドスラムのQをFにするのが1位選手の成績というイメージなのでそれを取り入れると840p増えて9610pです。
まあグランドスラムとマスターズでわずか2勝で1位というのはできすぎなので、ここからFやSがいくつかWになって、その代わりどっかが序盤で敗退というのが現実的な数字でしょう。
参考までにジョコビッチの成績を並べると
GS→W,F,S,Q(=4280p)
MS→W,W,W,W,S,16強,16強,欠場(=4540p)
それ以外→1040p
9860pという成績です(ファイナル除く)。上の錦織の勝手な仮定と違うのはマスターズの優勝の数くらいで、やはり1位にはこれくらいの成績が求められるということでしょう。
そして当たり前の事実を書きますが、1位でも負ける時は負けます。
カナダ→シンシナティ→全米では7勝3敗です。こういう時期も存在するということです。
まあトーナメント系の競技にありがちなことですが、「優勝以外、必ずどこかで負ける」わけですから気長に見ることが大事です。
それが2か月も3か月も続くようなら問題ですが、トップ選手は黙っててもそのうち勝ちだすので、長い目で見ましょう。短絡的な見解ほど全体が見えていないものはありません。
長々と書いてきましたが今日言いたかったことは2つ、11位~30位付近の選手の意外な成績の低調さと、1位の選手の成績目安です。
次回からはスタッツについての数字を見ていきましょう。まだまだテニスの奥深さを紹介していこうと思います。なお次回は電卓を用意することを強く推奨します。あと余裕があれば高校数学Aの確率分野を復習しておきましょう。それでは。