超満員の観衆が見守る中、お互い赤のウェアに身を包んだ両者の一戦が始まりました。フェデラーが序盤からネットに突進してボレーを決めていきます。ジョコビッチも負けじとパッシングショットを打ち返し、まず最初の4ゲームは両者がしっかりキープに成功しました。  しかしこの時点で既にフェデラーの好調ぶりは明らかでした。フェデラーは全く下がりません。前で前でボールを捉えてライジングで打ち返し、速い攻撃でジョコビッチにプレッシャーをかけていきます。苦手のはずのバックハンドに明らかにミスが少なく、バックハンドでもコートの中へ踏み込んでライジングできれいに打ち返していくのです。ジョコビッチは有利なはずのラリーで思ったようにポイントを奪えません。  第5ゲーム、ジョコビッチにミスが出て15-40となりました。ジョコビッチが1本はパッシングショットを決めましたが2本目はスライスで前に出たフェデラーに対してパッシングショットをネットにかけてしまい最初のブレイクをフェデラーが奪いました。  直後の第6ゲームのピンチをしのぐと、ここからしばらくフェデラーの良いところばかりが目立つ試合展開となりました。過去2戦の1st確率が70%を越えるなどファーストサーブが好調だったフェデラーはこの試合でも71%の確率でファーストサーブを打ち込んできました。第8ゲームはファーストサーブが4本突き刺さっただけでゲームが終わってしまいました、フェデラーがキープにかけた時間はたった47秒でした。そしてフェデラーのセットポイントでもサービスエースが突き刺さり、フェデラーが6-4でまず第1セットを奪いました。  フェデラーにも隙がないわけではありませんでした。ミスというミスはなかったものの浅いボールや甘いボールも多く、適当にアプローチショットを打って詰めてはあっさりパッシングショットを食らって逆襲を食らうパターンもかなりありました。しかし今日のジョコビッチにはフェデラーを咎めるだけの攻撃力がありませんでした。ジョコビッチは完全にミス待ちとネットダッシュ待ちのテニスに終始してしまったのです。守備専ジョコビッチはいわばジョコビッチのノーマルモード。フェデラーに勝利するには攻撃力も兼ね備えた一段上の状態に移行しなければいけないのですが、今日のジョコビッチには上げるギアがありませんでした。  第2セット第1ゲームではそれを象徴するようなポイントがありました。30-40でフェデラーのブレイクポイント、このポイントは普通のラリーになったのですがジョコビッチがまたしてもミス待ちになってしまいます。すると攻めないジョコビッチを尻目にフェデラーが逆襲、クロス深くに打ち込んでジョコビッチを釘付けにすると見事なフォアの逆クロスが炸裂!いきなりフェデラーのブレイクで第2セットが始まってしまいました。  その後もフェデラーが有利に試合を進めましたが、フェデラーサーブの第8ゲームでは40-0から3本取り返した後長いデュースとなりました。第2セットでジョコビッチがブレイクを取り返す唯一のチャンスでした。しかしフェデラーがデュースサイドで先に先にポイントを奪って1つもブレイクポイントを与えません。ここもフェデラーがキープしてしまうと勝負は決しました。  最後の2ポイントにはこの試合のフェデラーが集約されていました。30オールからまずファーストサーブが炸裂して8本目のエース。最後はスライスで拾って前に詰めると見事なボレーを2本決めて試合を締めました(フェデラー 6-4,6-4 ジョコビッチ)。フェデラーはネットポイント28/48(58%)、ラリーからのネットプレーでも13/23(57%)とネットプレーでジョコビッチを相手に十分なポイントを奪い、見事な勝利を収めました。  フェデラーは決勝でシモンと対戦します。フェデラーVSシモンはフェデラーの4勝2敗。フェデラーが今日のようなプレーを展開できればフェデラー有利ですが、フェデラーにミスが多くなるとシモンの守備力の前にエラーの山を築き上げることも十分考えられます。バブリンカやベルディヒを破って決勝進出してきたシモンは29歳にしてMS初優勝を狙います。「良いプレーをすれば、彼らのレベルで戦える」と自信を見せるシモンの牙城をフェデラーは打ち破ることができるでしょうか。