昨年から今年にかけてトップ選手の間で、通常のコーチではなく(引退後特にコーチなどの経験のない)昔のトップ選手をコーチに据えて教えを乞う「レジェンドコーチ」の招聘が一つのブームとなっています。今年の全米では準決勝に進んだ4人全員がレジェンドコーチに師事しているという状態になり、非常に注目を集めたのは皆さんご存知だと思います。  具体的にその4名を書けば以下のようになりますね。 チリッチ&ゴラン・イバニセビッチ 錦織&マイケル・チャン ジョコビッチ&ボリス・ベッカー フェデラー&ステファン・エドバーグ  このレジェンドコーチ招聘の流れを作ったのはマレーでしょう。BIG4の一人として活躍しながらもグランドスラムのタイトルに中々手が届かなかったマレーは2012年よりイワン・レンドルをコーチとして招聘。レンドルはマレーと非常に共通点が多いプレイヤーで、初めてのグランドスラム獲得までに4度の準優勝を要したこと、もっとも欲するタイトルがウィンブルドン制覇であること(レンドルは結局最後まで全英は取れませんでした)、現役時代(特に若手時代)メンタルに難があった点など「似たもの同士」。その欠点を補うべく長い現役時代を通して奮闘を続けたレンドルの経験は、マレーに必要不可欠なものでした。  彼らの師弟関係は見事に成果を発揮しました。マレーは2012年全米、5度目となるグランドスラム決勝戦で悲願の初優勝を飾ると翌年のウィンブルドンも制し見事悲願を達成しました。  マレーに続けとばかりにレジェンドコーチを求めたのはバブリンカ。ソダーリングのコーチとして既に実績を残していたマグヌス・ノーマン(全仏準優勝、元世界2位)を招聘したバブリンカは彼の教えを受けた2013年以降見事な再ブレイクを果たし、今年はついに全豪とモンテカルロを奪い世界3位にまで上り詰めました。  そんな彼らの成功に刺激を受けたのかどうかはわかりませんが、課題のネットプレーを強化すべくフェデラーやジョコビッチがエドバーグやベッカーという80年代のレジェンドプレイヤーを相次いで招聘したのが昨年12月のことです。  チリッチや錦織はビッグ4の三人とは少し傾向が違います。彼らは自らとルーツを共にし、そして「特徴が似ていた選手」をコーチとして招き入れました。チリッチは同国クロアチア(旧ユーゴスラビア)のレジェンドであるイバニセビッチに師事しました。ビッグサーバーのチリッチにとって、自由自在にサーブを操り全英制覇を成し遂げたイバニセビッチの指導は非常に大きかったでしょう。錦織が迎え入れたのも、同じアジア系の小柄な体格で大型選手を相手に一歩も引くことなく戦い、全仏優勝を含む3度のGS決勝進出を成し遂げたチャンでした。チャンは既にトッププレイヤーであった錦織に対して徹底的な練習で鍛え直し、さらにメンタルを叩き込んで今年の覚醒に繋げました。  しかしレジェンドコーチの成功が続く中で「元祖」のマレーとレンドルは今年師弟関係を解消してしまいました。原因は諸説あり真相は不明ですがマレーの負傷とそれによるランクの落ち込み、目標であった全英制覇達成によるモチベーションの低下などが原因の一説として言われています。  そんな中でフリーとなったレンドルに現在ラブコールを送っているのがベルディヒです。先月29歳を迎え、キャリアの終盤を迎えつつある現在7位のベルディヒ。ベルディヒとレンドルは同じチェコ出身の選手であり、ベルディヒが優勝を成し遂げたデビスカップ決勝では観戦するレンドルが目撃されたこともあります。両者の関係は悪くないだけに、新たなコンビ成立なるかに注目が集まっています。  両者は上海マスターズ終了後に交渉を行う予定です。果たしてベルディヒは新たなコーチとともに悲願のグランドスラム制覇を成し遂げることができるのでしょうか?