第1シードのセレナ・ウィリアムズ(アメリカ)が、5年ぶりに決勝に進んだカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)をストレートで下し、3年連続6度目の優勝を飾った。グランドスラム通算18度目の優勝は、クリス・エバート、マルチナ・ナブラチロワに並ぶ歴代2位の記録。歴代1位はシュテフィ・グラフの22回。  手が付けられない強さだった。最速で時速193㎞、平均172㎞のサーブを軸に、丸太のようなフォアハンドが右に左に炸裂した。大会終盤での強さには定評があるが、準決勝のエカテリーナ・マカロワ(ロシア)戦よりさらにギアが上がり、叩きつけたウィナーは29本。鉄壁のディフェンスを誇るウォズニアッキが振り回され、打球を茫然と見送るシーンもしばしばだ。  第1セットの第2ゲーム、ウォズニアッキのサービスゲームの最初のポイントで、強烈なフォアハンドのリターンを食らわせた。立ち上がりから全開のパワーに、そうでなくとも緊張してコートに立ったウォズニアッキの腕が縮んだ。このゲームで2度のダブルフォルトでデュースに入ると、そこから立て続けに2本のリターンエースをお見舞いした。  どんな選手でも感情の高ぶるグランドスラムの決勝において、立ち上がりがいかに重要か、どのように自分のムードを作っていくか、百戦錬磨の女王様は知り尽くしているのだろう。サーブの乱れからウォズニアッキもブレークバックしていくのだが、流れはセレナ。試合が進んで場が馴染んでくれば、勢いは加速し、セレナは第6ゲームのリターンゲームに一気に攻め込んでブレーク。第1セットを6-3で奪った。  2人は仲の良いメル友だという。何時間でもお喋りし、それもテニスの話題などではないというから、よほど気が合う仲だ。それでもセレナはやり難さを一笑に付した。 「私はお姉ちゃんと一緒に住んでいるのよ。ビーナスと試合することに比べたら、どうってことないわ」  一方のウォズニアッキには、そんなことより、どうしても欲しいタイトルだった。ランキングでは世界1になっても、メジャー・タイトルがない。まして、ゴルファーのローリー・マキロイとの失恋の〈落とし前〉が済んでいない。マキロイは別れた後にメジャー・タイトルを二つも手にしているのだから、今年最後のグランドスラムに期するものがあったのは当然だろう。この秋のニューヨークシティーマラソンに挑戦することを明らかにしているが、同じモナコに住むノバク・ジョコビッチ(セルビア)によれば、いつ見かけても走っているそうだ。印象的だった、4回戦のマリア・シャラポワ(ロシア)との攻防、準決勝のペン・シューアイ(中国)との激しいラリー戦は、肉体的にも、精神的にも、マラソン効果かもしれない。だが、エンジンフル回転のセレナに容赦はない。  第2セットの最初のゲームをブレークすると、第2ゲームには3本のサービスエースを浴びせかけた。2セットで16ポイントも差のついたワンサイドゲームだったが、セレナは涙を流して声が出なかった。一昨年、昨年は、4大大会の2大会で優勝したものの今年は全豪の4回戦が最高、すべて1週目で会場を後にした。ウィンブルドン後に体調を崩し、夏のアメリカン・シリーズで2大会に優勝しても、不安を口にしながら臨んだ大会だった。18度目のメジャー・タイトルの最初が15年前のこの全米オープン。アフロ・アメリカンの象徴としての誇りも、胸の内にはあっただろう。  今年の大会は厳しい暑さが続いた。ウィンブルドンで台頭の兆しを見せた若手は、シーズン後半の疲れが出たのか、ベリンダ・ベンチッチ(スイス)が辛うじてベスト8に残っただけ。グランドスラムの優勝者の今季ここまでを振り返ると、全豪優勝のリー・ナ(中国)はツアー1勝、全仏のシャラポワは2勝、ウィンブルドンのペトラ・クビトバ(チェコ)は1勝と、必ずしも万全ではない。ツアーの力はそれだけ均衡しているが、グランドスラムの2週間、7試合を勝ち切るパワーまではまだ備わっていないということか。セレナはツアー4勝。今月26日に33歳になるが、この独裁傾向はもう少し続きそうだ。優勝賞金にアメリカ・シリーズのボーナスを合わせて400万ドル(約4億2千万円)を獲得した。  なお、車椅子テニスのシングルスで男子は国枝慎吾、女子は上地結衣が優勝した。 文:武田薫